新製品・サービスの開発プロセスとは?
前回連載の通り、新製品開発は自社の製品ラインの活性化をはかる重要な手段となります。伝統的製品をもつ長寿ファミリー企業では、後継者による新製品開発への挑戦が重要な意味を持っているといえるでしょう。
事業承継プロセスを通じて、後継者に対していかに新製品開発への取り組みを行わせるのかという課題を考える場合に、石井淳蔵・栗木契ほか(2004)の新製品・サービスの開発プロセスの概念が示唆を与えてくれます。この新製品・サービスの開発プロセスとは、以下7つの段階を示します。
[図表]新製品・サービスの開発プロセス
独立部門の設置で、既存部門が影響を受けにくい
新製品開発において、アイデアの収集と製品コンセプトの開発(アイデアを消費者ニーズに合わせること)とは、最も重要な段階であるといえます。長寿ファミリー企業では、伝統的な製品と比較していかに新しさを出していけるかがポイントとなります。
筆者の長寿ファミリー企業の調査によると、後継者に新製品開発を担当させる場合、新製品開発プロジェクトチームが組織されることがよくあります。このプロジェクトチームは、製造部門や販売部門の配下に設置されるのではなく、経営者直轄の独立部門として設置されることが多いようです。
経営者直轄の独立部門として設置される理由は、既存部門からの影響を受けにくくする工夫であるということができます。特に長寿ファミリー企業の場合、伝統的な製品が存在する関係から、既存部門の間では新製品の開発には前向きでない雰囲気があります。
新製品開発の勘所ともいうべきアイデア創出や製品コンセプトの開発の段階においては、自由な発想を取り込み自由な発想を育む環境が必要となります。その意味で、新しい価値観をもった後継者主導による経営者直轄型のプロジェクト組織が、アイデア創出や製品コンセプトの開発の段階において有効な組織形態であるといえるでしょう。
収益性計画等では経営幹部によるシビアな評価も必要
他方、アイデアや製品コンセプトが優れていても、新製品開発が成功する保証はありません。新製品開発には、技術や収益性の問題など現実的な課題を乗り越える必要があります。新製品・サービスの開発プロセスの中盤以降については、組織内の各部門との横断的なコミュニケーションが重要となります。
先述の後継者によるプロジェクト組織は、アイデアや製品コンセプトの開発以降、既存の製造部門や販売部門との対話と連携が必要となるのです。ただし、筆者の事例研究からは、経験の浅い後継者は、製造部門や販売部門の責任者(現経営者世代の経営幹部)との交渉で行き詰まる場合しばしば生じることが示されています。
この段階における経営者の役割として重要なことは、製造部門や販売部門の責任者がなぜ後継者の提案を渋るのかを十分に精査せねばならないことです。後継者の提案を渋る理由が、新製品への単なる感情的な拒絶なのか、もしくは技術や収益性の面で問題が生じる可能性を示唆するものなのかを吟味せねばなりません。前者であれば、現経営者は、後継者の取り組みを側面支援すべきでしょう。
他方、後者の場合、新製品開発における盲点を指摘する等、後継者の取り組みに対しての牽制の意味が隠されています。この場合には、現経営者は後継者に取り組みについて再考を促す必要があるでしょう。
それだけではありません。後継者による、アイデアや製品コンセプトの開発、収益性に関して現経営者世代の経営幹部との交渉、更には市場導入に向けて試行錯誤する一連のプロセスは、後継者にとって良い訓練機会となります。事業承継のプロセスにおいて、後継者が試行錯誤できる機会を内蔵できることこそが、ファミリービジネス独特の醍醐味と言えるかもしれません。
このように、後継者による新製品開発プロセスの観点からは、ファミリービジネスの事業承継における様々な示唆を提供してくれることがわかります。
<参考文献>
石井淳蔵・栗木契・嶋口充輝・余田拓郎(2004)『ゼミナール マーケティング入門』日本経済新聞社.
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.