今回は、企業経営における「バリューダイナミクス」の活用法を見ていきます。※本連載では、株式会社バリュークリエイト代表取締役・三冨正博氏の著書『「見えない資産」経営 企業価値と利益の源泉』(東方通信社)から一部を抜粋し、組織資産や人的資産、顧客資産といった「見えない」資産の創り方を見ていきます。

バリューダイナミクスへの評価が盛り上がらない理由

エンロン事件が起こる前に、アーサーアンダーセンの経営陣がバリューダイナミクスのフレームワークに落とし込んで自社の状況を考察することができたなら、あるいは破滅的な事態を免れることができたかもしれない。

 

ところが、すでにお気づきの方も多いと思うが、このバリューダイナミクスというフレームワークを開発したのは、何を隠そう、アーサーアンダーセン自身なのである。

 

インターネットの登場やグローバリゼーションの発達によって変化した1990年以降の新しい経済状況を「ニューエコノミー」と規定し、新時代に対応する価値創造のフレームワークを開発しようという野心的な試みから生まれたもので、その研究成果をまとめた著書が『Cracking the Value Cord』(邦題『バリューダイナミクス』)として世に紹介されたのは、同社が解散する2年前の2000年のことだった。

 

顧客企業の経営者とともに企業会計や経営の最前線を歩むなかで、企業とはどういうもので、いかにして価値創造が行われていくのかを見続けてきたアーサーアンダーセンの集大成ともいえる。

 

このフレームワークに従った経営を行うことで企業は繁栄し、この法則に背くとどんな大企業でも衰退してしまうことを、アーサーアンダーセン自身が非常に劇的な形で世に知らしめたのは、なんとも皮肉なことだろう。

 

アーサーアンダーセン自身が解散してしまったことで、バリューダイナミクスに対する世間の評価もいまひとつ盛り上がっていないのが現状である。しかし、このフレームワークが放つ光はいまも決して衰えていない。

「価値の暗号を解読すること」とは?

私にとって、著作が発表されたのは退職したのとほとんど同じタイミングだったが、新しく示されたフレームワークにいたく興奮したことを覚えている。

 

バリューダイナミクスは、原題の通り、「価値の暗号を解読すること」が狙いだ。企業価値を生み出している源泉はどこにあるのかを突き止めることができれば、あとはそこに磨きをかけていけばいいことになる。多くの企業経営者が求めてやまない謎の答えがここにありそうだと直感した。

 

私は、さっそくこの手法を顧客企業の経営アドバイスに取り入れていった。

 

当時、私たちの起こしたバリュークリエイトは設立から1年もたっていないころで、経営的に順風満帆といえる状況ではなく、顧客企業にどんな価値を提供できるのか、模索する時期が続いていた。そこに答えをくれたのがバリューダイナミクスである。与えられたフレームワークを顧客企業の経営アドバイスに使いはじめたところ、次々に成果が出はじめたのである。

 

けれど、最初の時点では、バリューダイナミクスはフレームワークの概念を示したものにすぎなかった。

 

『Cracking the Value Cord』のエピローグで著者が「われわれはまだビジネス価値の創造を司る暗号を完全に解読したわけではない」といっている通り、手法として完成されたものではなかった。

 

そこで私たちは、顧客企業にアドバイスをするという実務のなかで、顧客と一緒になって考え、議論を重ねながらバリューダイナミクスが目指した企業価値創造を司る暗号の解読に取り組み、フレームワークからキーを見つけ出し、一つひとつモデル化していった。それが、本書(※書籍参照)でこれから説明していく「価値創造のプロセス」「5つの資産とDCFモデルの連動」「バリュートライアングル」「長期の財務分析」「企業価値の構造化」「3つの輪」「顧客資産の2軸のマッピング」「人的資産の2軸のマッピング」「4本のアンテナ」である。

 

たんなる概念の話ではなく、実際に経営で使える手法として具現化したツールを、バリューダイナミクスのフレームワークのなかから探し出すことが当初の私たちの仕事となった。

本連載は、2017年5月13日刊行の書籍『「見えない資産」経営 企業価値と利益の源泉』(東方通信社)から抜粋したものです。稀にその後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「見えない資産」経営―企業価値と利益の源泉

「見えない資産」経営―企業価値と利益の源泉

三富 正博

東方通信社

企業価値というと、金融資産や物的資産といった「見える資産」ばかりが注目されがちだが、著者はそのほかにも組織資産や人的資産、顧客資産といった「見えない資産」があることを強調し、それこそが企業価値と利益の源泉である…

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