今回は、「ありがとう【有り難う】」を解説します。※本連載は、元小学館辞典編集部編集長で、辞書編集者として多数の辞書作りに携わってきた神永曉氏の著書、『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、変化し続ける「ことばの深さ」をお伝えします。

「オブリガード」とよく似ている!? 

ありがとう【有り難う】〔感動〕

 

[1]ポルトガル語の「オブリガード」が語源?

 

「ありがとう」の語源はポルトガル語の「オブリガード」から来ているという説が、巷ちまたでけっこう話題になっているのをご存じだろうか。さらにはその逆で「ありがとう」が「オブリガード」になったという説まであるらしい。いずれにしても「アリガート」と「オブリガード」はよく似ているというのが根拠のようだ。日本人がポルトガルに行くと、しばしばそのように言われることもあるらしい。

感謝を表す江戸時代のことばは「かたじけない」が主流

だが、「ありがとう」は、形容詞「ありがたい」の連用形「ありがたく」がウ音便化した語で、ポルトガル語が日本に伝わる前から使われてきた、れっきとした日本語である。ただし、日本にポルトガル船が来航し、日本人がポルトガル語と接触するようになった16世紀後半は、感謝の意味を表すことばは「ありがとう」ではなく「かたじけない」が主流であったと考えられているのだが。「ありがとう」が広まるのは江戸時代になってからのようである。

 

確かに日本語の中にはカステラ、タバコ、パンなどのようにポルトガル語から取り入れられた語も少なくない。だが、何となく音が似ているということだけで判断したら、2002年に公開されたアメリカのコメディー映画「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」に出てくる、世界の言語は日本語も含めてすべてギリシャ語が語源であると主張するお父さんと同じになってしまう。

 

日本語を母語として使っている以上は、「こんにちは」「こんばんは」「さようなら」「おはよう」といった日常のあいさつ語くらいは、外国人にもちゃんと語源が説明できるようにしておきたいものである。

 

□揺れる意味・誤用

 

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