専門家も悩む「異字同訓」の使い分け
「大形」と「大型」の使い分けは?
辞書編集者に成り立ての頃、解説文の中でどちらで書いたらいいのかわからず悩んだ表記に、「大形(小形)」と「大型(小型)」の使い分けがある。たとえば動植物の解説中に、「春におおがたの花が咲く」とか、「おおがたのイヌ」などとあった場合に、「おおがた」を「大形」「大型」のどちらで書くかということである。
このような動植物関係の原稿は、それぞれの分野の専門家が書くことが多いのだが、原稿を見ると「大形」「大型」で揺れている。執筆者も悩んでいるということなのであろうが、専門家ですらそうなのだからと安心していいということではない。
結論から先に言うと、動植物の場合は「大形(小形)」とすべきところである。では、台風や低気圧などはどうであろうか。これに関しては、気象庁の発表や新聞などでは「大型(小型)」としているはずである。
となると「形」と「型」の違いは何かということになる。
「形」も「型」も常用漢字で、ともに「ケイ」という字音と「かた」という字訓があるからややこしい。ただ、違いがまったくないかというと、そういうわけではなく、「形」には「型」にはない、「ギョウ」「かたち」という読みがある。
「形」と「型」のような「異字同訓」の使い分けに関しては、2014年に文化審議会国語分科会が報告した「『異字同訓』の漢字の使い分け例(報告)」に少し詳しい例が載っている。それによると、
【形】
目に見える形状。フォーム。
ピラミッド形の建物。扇形の土地。跡形もない。柔道の形を習う。水泳の自由形。
【型】
決まった形式。タイプ。
型にはまる。型破りな青年。大型の台風。2014年型の自動車。血液型。鋳型。
とある。これで、台風は「大型」がいいということだけはわかる。
絶対的な場合は「形」、相対的な場合は「型」
国語辞典では、ほとんどが「大形」「大型」を見出し語としていて、「大形の花」「大型台風」などを例として挙げているものが多いので、多少使い分けがわかる。さらに、『現代国語例解辞典』(小学館)のように、「形そのものが大きい場合に『大形』、同類と比べて規模、スケールが大きい場合に『大型』を用いることが多い」といった補注があるものもあり、それからある程度は類推が可能となる。
つまり、動植物の場合だと、形が他の動植物よりも大きい場合に「大形」を使い、同じ種類で個体の大きいものは「大型」を使うということになるわけである。たとえば、カツオやマグロなどは「大形」の魚で、釣りなどに行って大きめのアジやタイを釣った場合には「大型」を使うということになる。
何となくわかった気になるのだが、それでも個別の問題になると悩みそうな気がする。
□揺れる読み方