中世以降「手厚く歓待する」との意味が発生
手厚く歓待する意味は中世以降に生まれた
2020年開催の東京オリンピックに向けて、「おもてなし」ということばが盛んに使われている。このことばは、オリンピック招致の際にフリーアナウンサーの滝川クリステルさんが使って広まったのだが、そのときの滝川さんのジェスチャー付きの映像をご記憶のかたも大勢いらっしゃることであろう。オリンピックが近づくにつれて、外国からのお客さんに「おもてなし」とはどういう意味かと聞かれることがあるかもしれない。
そこで少し語源をおさらいしておこうと思う。「おもてなし」の「もてなし」は、動詞「もてなす」の連用形が名詞化したものである。では動詞「もてなす」はどういう語なのかというと、そのように扱う、そのようにするなどの意味の「なす(成)」に、接頭語「もて」が付いたものである。接頭語の「もて」は「動詞の上に付いて微妙なニュアンスを与え、または意味を強める」(『日本国語大辞典(日国)』)語で、「もてはやす」「もてさわぐ」などの「もて」と同じである。
「もてなす」は、元来は、意図的にある態度をとってみせる、なんとか処置をするといった意味であったが、中世以降、手厚く歓待するという意味も生じてくる。『日国』には、その意味の以下のような面白い用例も載っている。
「アルトキ ネヅミノ モトニ カイルヲ マネイテ シュジュノ チンブツヲ ソロエテ motenaita(モテナイタ) トコロデ」(1593年『天草本伊曾保』ネテナボ帝王イソポに御不審の条々)
原文はすべてローマ字書きで、「伊曾保」とは「イソップ」、すなわち「イソップ物語」のことである。『天草本伊曾保』は、近世初期にイエズス会が宣教師の日本語学習用に編纂した、口語訳ローマ字本である。「カイル」はカエル、「シュジュノチンブツ」は「種々の珍物」のことである。
英語では表現しにくい「おもてなし」の微妙な意味合い
ところで、たとえば英語で「おもてなし」に当たる語は何であろうか。serviceだといささか事務的な感じがしないでもない。だとすると、hospitalityあたりだろうか。だがそれとても、日本人が思っている「おもてなし」の微妙な意味合いは伝わらない気がする。
国語辞典でも「手厚く歓迎する」といった意味しか記述できないのだが、もちろんもっと深い意味と内容をもったことばであることは間違いなさそうである。