本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。
所定労働時間外勤務、休日勤務の賃金が「未払い」
<判例>
ゴムノイナキ事件
(大阪高裁平成17年12月1日判決、労判933・69)
<負け判例の概要>
1.事案の概要
G社は、工業用ゴム製品・合成樹脂製品の販売等を業とする株式会社である。Xは、G社の社員であり、担当する業務は生産管理および納期のデリバリーであった。
本件は、Xが、平成13年4月から平成14年7月までの大阪営業所勤務当時、連日午後10時ないし翌朝午前4時頃までの平日の所定労働時間外勤務や休日の勤務に対する賃金が未払いであると主張して、給与規定に基づく超過勤務手当等の支払いを求めた事案である。
2.会社の労務管理内容等
(1)大阪営業所の始業時刻は午前8時45分、終業時刻は午後5時30分であり、週休2日制がとられ、毎週土曜日および日曜日が休日であった。
(2)タイムカード等を用いた出退勤管理は行われていなかった。
(3)G社の給与規定では、超過勤務手当については、事前に所定時間内に「休日出勤・残業許可願」を所属長に提出し、許可を得なければならないと定められていた。
(4)大阪営業所では、平成4年夏頃、A所長が就任した。
A所長は、社員に対し、「会社に残るのは結構だが、必要な業務をせずに居残っているだけの時間については残業の申告はしないように」などと通告して、終業時刻後に上記許可願を提出せずに残っている社員に対し、当該社員が仕事をしていないことを理由に退社することを求めることはなかったが、許可願の提出を厳格に求めるようになった。社員が終業時刻以後に仕事をしていても、許可願を提出していない場合は、超過勤務手当が支払われないようになった。
Xに対しても、大阪営業所に勤務している期間、上記許可願を提出した場合には超過勤務手当が支払われたが、それ以外の超過勤務に関しては超過勤務手当が支払われなかった。
(5)大阪営業所における終業時刻以降の残業は、明示の職務命令に基づくものは別として、多くの場合は、その日に行わなければならない業務が終業時刻までに終了しないため、やむなく終業時刻以降も残業せざるを得ないという性質のものであり、社員の作業のやり方等によって、残業の有無や時間が大きく左右されることになった。
帰宅時間はほぼ毎日午前0時過ぎ・・・
3.Xの残業
Xは、平成13年4月に大阪営業所で勤務するようになった当初、午後11時3分発の最終バスに乗車できない場合には、会社に「車両一時借用願」を提出して、会社の自動車に乗車していたが、同年10月1日からは、会社から毎日社有車を借用するようになった。
Xの妻は、Xの帰宅が遅いことから、その体調を心配し、平成13年9月から平成14年3月までの間、Xの帰宅時間をほぼ30分単位でノートに記載するようになったが、記載された帰宅時間は、ほとんどの日について午前0時を過ぎていた。
4.本件訴訟に至る経緯
Xは、平成14年4月27日、会社に対し、同年7月末日付で退職したいとの退職願を提出し、同年6月頃から、会社から退職を強要されたと主張するようになったが、結局、同年7月に退職した。
その後、Xは、平日の所定労働時間外勤務や休日の勤務に対する賃金が未払いであると主張して、給与規定に基づく超過勤務手当等の支払いを求めて訴訟提起した。
堀下社会保険労務士事務所 所長
社会保険労務士
1971年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。
明治安田生命保険(相)、エッカ石油(株)経営情報室長を経て現職。事前法務で企業防衛を中小企業・大企業に提供し、9年間の社会保険労務士業務において顧問先約250社。指導した企業は1000社を超える。自らもエナジャイズコンサルティング(株)代表取締役、社会保険労務士事務所所長として職員15名を抱え、経営者視点の課題解決法を提供する。講演会多数。
<著書>
『なぜあなたの会社の社員はやる気がないのか?―社員のやる気をUPさせる労務管理の基礎のキソ』 日本法令
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』 日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』 日本法令
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント
穴井りゅうじ社会保険労務士事務所 所長
社会保険労務士
1972年生まれ。熊本学園大学経済学部卒業。
(株)地域経済センターにて経済記者として多くの経営者に出会い、経営的観点の労働問題の解決策を発見する。弁護士、弁理士、公認会計士、司法書士、税理士など、多くの専門家と幅広い人脈を持ち、経営者の多種多様な問題にも対応している。現在は、労務問題解決コンサルタントとして120社越のクライアント支援に取り組む。また、実践的と評価の高いセミナーなど、自社および経済団体などで年間30回以上行う。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』 日本法令
著者プロフィール詳細
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連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント
ブレイス法律事務所 所長
弁護士
1997年生まれ。大阪府大手前高校、京都大学法学部卒業。弁護士であるほか、税理士資格、メンタルヘルスマネジメントⅠ種を取得。中小企業の法的支援に精力的に取り組み、特に税務を見据えた法的サービス、問題社員対策、メンタルヘルス対策などに定評がある。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策 』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』日本法令
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神戸三田法律事務所 所長
弁護士
1971年生まれ。私立明星高校、慶応義塾大学総合政策学部卒業。大阪にて弁護士登録後、兵庫県丹波市のひまわり基金法律事務所に所長として2年間赴任し、弁護士過疎問題の解消に取り組む。現在は、下請かけこみ寺(財団法人全国中小企業取引振興協会主催)の相談員、兵庫県三田市商工会専門相談員などを行い、中小企業の法的支援に精力的に取り組んでいる。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』日本法令
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