不良資産や遊休資産の存在によって収益率を下げている会社は少なくありません。今回は、M&Aに向けてどのように資産の整理を進めるか、また、個人の資産と会社の資産をどのように明確に区分するか、その基準などを見ていきます。

買い手側から「管理が甘い会社」と見られる原因に

自社の磨き上げには「財務内容のいい会社」にすることも大事です。粉飾や脱税などはもってのほかです。おそらく読者の皆さんは倫理観に基づいたまっとうな経営をされていることと思いますが、それでも財務内容に不備が起きることはあります。

 

たとえば、会社に不良資産や遊休資産などが放置されているようなケースはしばしばあります。事業意欲の強い社長ほど、本業以外の業務にも進出しがちです。しかし、周辺業務というのは本業よりも管理が甘くなりがちで、中途半端な結果に陥りやすいものです。事業を拡大するうちに、不良資産や遊休資産が増えてしまい、それがムダを生んで、収益率を下げている会社は珍しくありません。

 

喩えるなら、押し入れのなかに着なくなった服や捨てそびれた旧式の家電などが雑多に押し込まれているイメージです。それらが押し入れのスペースを圧迫し、本来収納したいものが収まりきらずに部屋にあふれ出し、リビングを狭くしているようなものだと思ってください。不要なものに生活が脅かされているとしたら、それは本末転倒でしょう。

 

貸借対照表に不良資産や遊休資産が記載されていると、買い手側からは「管理が甘い会社」と見られてしまいます。不良資産や遊休資産が多いということは、利益を生み出すために本当に必要なものと、そうでないものの区別が付いておらず、経営手腕が劣っているという証明にもなってしまいます。

 

M&Aに取り組む際には、大掃除をするつもりで、本格的に保有資産を把握し、整理することをお勧めします。具体的には不良資産や遊休資産を売却し、総資産額を圧縮します。そして、本来の主力業務に経営資源(ヒト、モノ、カネ)を集中します。これが、貸借対照表(B/S)のスリム化です。不良資産や遊休資産を整理したことによって回収されたキャッシュは、借入金の返済などに回します。

会社経理と家計の「線引き」を明確化する

貸借対照表をスリム化するときには、資産の一つひとつを検討して、業務上必要な資産だけを残すようにします。余分な脂肪を落として、筋肉だけを残すイメージです。中小企業の社長に多いのですが、会社の資産と社長個人の資産との線引きが曖昧になっているケースが見られます。「会社は俺のもの」という意識があるのかもしれません。ただ、M&Aは会社の売買ですから、会社経理と家計は厳密に区別されていなければなりません。

 

たとえば自宅、自家用車、船舶、リゾート施設会員権といった社長個人の資産が、会社の資産として紛れ込んでいることは往々にしてよくあるものです。交際費なども必要経費とプライベートの境目が曖昧になりやすいもののひとつです。

 

仮にヨット1500万円が経費扱いになっていたとします。これをM&Aの財務デューデリジェンスで見せたとき、買い手側はどう思うでしょうか? 接待のために不可欠な経費なのか、福利厚生で従業員が利用しているのか? あるいは社長の個人的な趣味なのか判別が付かずに困惑するはずです。

 

会社を丸ごと受け継ぐ株式譲渡では、取引先や顧客との関係もそのまま引き継ぐことになるので、関係性維持のために必要である、あるいは従業員がチームを作り、レースに参戦していて社内行事の一つとして定着しているというのであれば、保有し続けるという判断になるかもしれません。

 

資産ごとに個別に譲渡する事業譲渡であれば、不要な資産は譲渡のリストアップに載せないことも可能ですが、株式譲渡の場合は財務諸表にすべて載ってしまうので、特に注意が必要です。不必要な経費や資産で財務諸表を汚してしまうと実態が見えづらく、M&Aを混乱させる原因になってしまいます。

 

そもそもビジネスでは資産の公私混同は、本来あってはならないことです。M&Aを考えているのであれば、買い手に会社の実態を正しく評価してもらうためにも、事業に関係のない資産は原則として売却しましょう。あるいは、売却しないで退職金の一部として持ち出すことも可能です。少なくともM&Aの直近3~4年は財務のダイエットをして、スリム化を図るべきです。

 

さらに、M&Aの開始が間近に迫ってきたら、事業関連資産の整理にも手を付けます。
「財務諸表はできるだけシンプルに」「利益を生み出す筋肉体質に」が、M&Aをスムーズに進める上での合言葉です。

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

「後継者がいない」「後継者がいても継がせたくない」そう悩む中小企業経営者が増えています。しかし、廃業となると、経営者自身の連帯保証の問題や従業員の生活の保証、取引先への影響などもあるため、なかなか踏み切るのは難…

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