建設会社の業績悪化を生む「コミュニケーション不足」の問題

他部署との連携不足が実行予算書の精度を落とす

〈課題4〉社内のコミュニケーションが取れていない

業績の良くない会社は必ずと言っていいほど社内がバラバラで、コミュニケーションが全く取れていない（図表1）。

［図表1］社内コミュニケーションの問題

まず、経営者と社員の断絶が深刻だ。

私は、業務改善の実行支援をさせてもらうときには、最初に経営者だけでなく、パートや派遣を含めほぼ全ての社員と面談を行う。

すると、経営者からは「社員がしっかりしていない」「育たない」「管理職が全然わかっていない」という話がよく出る。一方、社員にヒアリングすると、「社長は分かっていない」「管理職が機能していない」「給料が安い」「ボーナスが出ない」といった意見が噴出する。お互いの信頼関係が失われているのである。

責任は100％、経営者にある。経営者が会社の現状と方向性を社員にきちんと説明し、十分理解させていないことに原因がある。

もともと、建設会社の経営者はワンマンが多い。経営者は対外的な折衝に加え、金融機関への対応、そして資金繰りなどで大変だろう。また、経営者自身、自社の方向性を定め切れていないこともあるだろう。しかし、社長が社員とコミュニケーションを取っていないのでは、経営者として失格と言わざるを得ない。

特に問題なのは、自分に問題があるとは思っていないケースだ。このケースはかなり多い。自分の足りない点を自覚し、自分を変えようと努力している経営者もいるが、そのような謙虚な人は少数派だ。

社員同士のコミュニケーションにも問題がある。

特に、営業サイドと現場サイドの連携が取れていないケースが圧倒的に多い。営業は受注することのみに走り、現場は納品および現場完成のみに走るのである。

その結果、営業が工事を受注した後、施工部門には現場の住所と図面を渡すだけという事態が頻繁に起こり得る。発注者や関係者との細かいやり取りや合意事項などが伝わっておらず、工事が始まってからトラブルになりがちだ。営業部門と工事部門、管理部門の間でコミュニケーションがなければ、見積もりや実行予算書の精度も低くなってしまう。

あるいは、同じ部門内でも、各人がバラバラに動いていて情報を共有していない。問い合わせが入った際、その担当者がいないと簡単なことでも答えられず、時間ばかりかかる。しかも、経営者は「社内の連携が取れていない」という事実をほとんど認識していない。多少、認識していても「管理職が悪い」と決めつけて終わりである。

こうしたコミュニケーションの悪い会社では、経営計画を立てることなどできない。

コンサルタントが作る「改善計画書」も、所詮は銀行向けの机上の空論で終わってしまう。数値目標は並んでいるが、具体的にどうやってそれを達成するかの方法論がほとんどない。

「土台」がなければ何をしても業績に変化は起こらない

経営コンサルタントのなかには、社員教育と原価管理を徹底すれば建設会社の経営は良くなると言う向きもある。

しかし、社員教育にしろ原価管理にしろ、経営改善の手段に過ぎない。そうした手段が効果を発揮する“土台”がきちんとできていなければ、どれだけ社員教育をしても、原価管理や実行予算の手法を教えても、会社の業績には大きな変化は生まれないだろう。

社内のコミュニケーションこそがその“土台”である。

社内のコミュニケーションを良くするには、まず経営者が社員に会社の現状や今後の方向性などをきちんと説明し、理解してもらう必要がある。そして、社員の意見に耳を傾けながら、話し合わなければならない。

経営判断はもちろん経営者が行うものだが、普段の話し合いは決して上から目線ではなく、あくまで対等の立場で行う。

社員が何を考え、何に不満を感じ、本当はどうしたいと思っているのか。なぜ経営者や管理職に反発するのか。なぜ営業を真剣に行わないのか。なぜいつも工事部門で採算が悪化し、営業との連携がうまくいかないのか。

これらは実際に聞いてみなければ分からない。そして、聞けば答えは意外に簡単に出てくる。