自分以上に会社のことを考えていてくれる!?
ピンチになると信頼できる人や実力のある人を見つけ出す嗅覚が鋭くなっていきましたが、それと同時に、自分以上に会社のことを考えてくれている人たちにも気付かされました。
社内でそれまであまり目立たなかった人たちが、無謀にも業界素人の若造が会社の再建を担っている姿を見て、なんとか立て直してみせようじゃないか、と力を貸してくれたのです。
何しろ私ときたら、それまでIT関連の会社を立ち上げた経験はあるものの、塗装業界はまったくの未経験です。塗料の種類も、塗装の仕方もわかりません。その上、外部の人間でしたから、社内の組織構造や人材についてもわかりませんでした。
そのような状況ですから、もう、頼れそうな社員を見つけては捕まえて、あれこれ聞いて教えてもらうしかないわけです。
そのようなときに、私以上に会社をなんとかしなければと頑張ってくれた社員たちがいました。もちろん、彼らも自分たちの生活や家族のことがあったから頑張ったのでしょうけれども、優秀でまだ若い人たちでしたから、他社からの誘いもありましたし、自分で転職先を探すこともできたでしょう。
なぜ、倒産の危機に頑張ってくれたのか。後日尋ねると、1つは私が彼らを見つけ出して頼ったということがありました。やはり頼られるとなんとかしなければ、と思ってくれる人たちがいるのです。
それと、まったくの業界素人の若造の考えていることが、それまでの閉塞感を打ち破るために好都合だとも判断してくれたようです。
彼らは、お客様や金融機関が取引をしてくれなくなり、塗料ディーラーさんが塗料を卸してくれない、そして多くの人員削減を余儀なくされるといった八方塞がりの状態にありながら、その危機を私と共に楽しんでいたそうです。
それは、やりがいがあったからだと言うのです。まぁ、半ばやけくそでフル稼働してくれたのかもしれませんが。
実際に、彼らのおかげで私はピンチを乗り越えることができましたし、会社も窮地を脱して再建の軌道に乗りました。ですから彼らには役員や役職付きとなってもらうことで、いまでも会社運営の中心的役割を担ってもらっています。
「先々代の社長に頼まれたことに応えているんだ」
また、若い人たちだけでなく、高齢の方にも私以上に会社のことを考えてくださっていた人がいました。
その方は顧問として力を貸してくださっていたのですが、「自分は君(私)のためにやっているんじゃない。先々代の社長(すでに故人)に頼まれたことに応えているんだ」と言われました。
このとき私は、この老舗の先々代が残してくれた「透明貯金」を使わせていただいているのだな、と実感したものです。
また、社外にも、会社のことを考えてくださっている人がいました。ここでも私は、磯部塗装という老舗が長い歴史の中で貯蓄してきた「透明貯金」に助けられることになります。
多くの塗料ディーラーさんたちが塗料を卸せないと判断された中で、大手の塗料ディーラーさんが助けてくれたのです。
そこの当時の社長が言ってくれました。
「磯部塗装というのは、簡単に潰れてもらっちゃあ困る会社なんだ。この業界で重要な役割を果たしてきたんだ。磯部塗装があったから、うちらもやってこられたんだからね」
やはりこの方も、我が社の先代や先々代との絆を大切にしてくれたのです。
ですから、私が「磯部塗装」という社名は風評被害でイメージダウンしているし、古くさくて若い人にもなじみにくいので社名を変えようかと考えている、と言ったら反対されました。
社名を変えるのは新しい社長の自由だが、この社名には、我々も関わってきた古い歴史が染み込んでいるんだ、と。その老舗の重みを忘れないでほしい、と。だから、こうして助けているのだ、とも。
このときほど、この会社が周りから支えられてきたことを実感したことは、ありませんでした。なんと大きな「透明貯金」が残されていたのか、と・・・。