今回は、スマートコミュニティ形成へ求められるアプローチについて見ていきます。※本連載は、早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科教授で、エネルギーマネジメントシステム、再生可能エネルギーの専門家である小野田弘士氏の著書、『失敗から学ぶ「早稲田式」地域エネルギービジネス』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、地域エネルギーの重要キーワード「スマートコミュニティ」について考察します。

まずは、スマートコミュニティの対象となる地域を知る

前回説明した点を踏まえ、どのようなアプローチをとるべきかを整理したのが以下の図表である。

 

[図表]スマートコミュティ形成へ求められるアプローチ

 

重要なのは、スマートコミュニティの対象となる地域を知ることから始めることである。

 

これは、営業などで商品・サービスを売り込むときに見込み顧客の情報をとるのと同じことで、至極当然の話であるが、この部分のプロセスが抜け落ちていることが多い。また、行政をはじめとする地域側が、それをうまく語れていないこともその一因といえる。

 

どちらの立場で述べるかによって、言い回しが変わってくるが、それを読み取る努力をすることも重要である。

 

例えば、筆者は、行政などの担当者がそれらをうまく語れないとき、市町村のウェブサイトの既存資料など(最初のステップとしては、パンフレットなどのまとめられたもので十分である)を通じて、その「地域」の特性を読み取る努力をしている。

地域を知るために必要な「4つのポイント」とは?

ここでいう「地域を知る」とは、以下のような項目である。

 

①その地域で何を実現したいのか?

 

各々の地域には、何をするにも「目的」があるはずである。具体的には、人口増加、雇用創出、産業振興などが挙げられ、被災地などでは、復興が喫緊の課題となっている。スマートコミュニティもそれに即したもの、あるいは貢献するものであって然るべきである。

 

②その地域には、どんな暮らしが待っているのか?

 

スマートコミュニティプロジェクトのなかでは、スマートハウスやスマートホームという名目で住宅用地がプロジェクトの対象となっていることも多い。

 

ところが、そこに居住した場合のメリットに関しては、殆ど語られていない。そのために、エネルギーの「見える化」のメリットを論じるだけで話が終わってしまう。あるいは、それ以前に、どのようなターゲット層に居住してもらうことを想定しているのかが明確になっていないケースが殆どである。

 

入居者に限らず、企業誘致などを検討する場合には、進出する企業のメリットも当然、語られるべきである。ソリューションの話ばかりしていると、こうした肝心なところが抜けて落ちてしまう。地域市民のメリットは何か? を常に意識する必要がある。

 

③その地域で守っていきたいものは何なのか?

 

地域を知るためには、その地域における伝統や文化、特産品などが大きなヒントになり、その価値観を共有することもプロジェクトを進めるうえで極めて重要となる。また、「交流人口の増加」を狙う際にも、その地域における観光資源などを知っておくことが有効な情報となり得る。

 

④その地域で解決しなければいけない課題は何なのか?

 

いわゆる「課題解決型」のアプローチである。地域における廃棄物問題や高齢化への対応などが挙げられる。

 

以上の地域のニーズに対応する手段のひとつとして、スマートコミュニティプロジェクトがあるべきだが、この間に大きな「谷間(ギャップ)」が存在するのが現実である。

 

つまり、地域側は、そのニーズが十分に語られず、そこに事業展開を目論む企業サイドもまったく地域のニーズを汲み取れていない。さらに、行政などがこれまでまったく取り組んでこなかったエネルギー分野へ取り組もうとすると、非常に中途半端な内容に留まるというケースも多い。

 

本来であれば、新しい地域エネルギーシステムに関する独自の仕組みづくりを期待したいところであるが、単なる創エネ・省エネ機器などの補助金制度に落ち着いてしまう。これまでのエネルギー政策は、国とエネルギー供給事業者だけが議論してきたものであり、地域行政に、そのノウハウが殆ど蓄積されていないことも、その要因であると考える。この分野の人材育成も重要な課題である。

 

その結果、「再生可能エネルギーを導入したコミュニティがスマートコミュニティ」という極めて短絡的な議論になり、再生可能エネルギーの導入が目的化してしまう。これは、非常によくあるパターンであるが、メガソーラーや風力発電を導入すればよいという発想は、極めて稚拙であると言わざるを得ない。

 

FITは、発電事業者と電力会社との間で完結するものであり、その地域へのメリットを語りにくい。その結果、ハード・システムだけの議論に終始し、どの地域のプロジェクトも似たような形に見えてしまうのである。

 

こうした流れでコンソーシアムを形成していくわけであるが、協議会形式でのコンソーシアムは、各地で組成されているようである。問題は、その先にどのような戦略・シナリオで、参加各主体にメリットがある形で還元できるかがポイントとなる。

 

この点に関しては、「まちづくり」、あるいは「まちそだて」という観点から、中長期的な視点でみると何をもって成果といえるのかを現時点で評価するのは難しい。しかしながら、プロジェクトに参画する行政や企業の「姿勢」に関しては留意しておくべきことがある。

失敗から学ぶ「早稲田式」 地域エネルギービジネス

失敗から学ぶ「早稲田式」 地域エネルギービジネス

小野田 弘士

エネルギーフォーラム

本書は、「まちづくり」「まちそだて」を成功させる秘訣について、著者の経験を踏まえた解決策を提示します。地域エネルギーに取り組むにあたっての具体的な実例や考えを提示し、「うちでは無理」「あの自治体だからできた」の…

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