自社よりも規模の大きい企業で「ノウハウ」を吸収
父親の会社に入社する前に、外の世界で鍛えてみることをぜひ勧めたい。ただし、あらゆるケースでそうすることが最善策というわけではなく、父親の会社の規模による。本書では父親の会社をいわゆる中小企業として想定しており、企業規模別にどのように外で鍛えるのがよいのか、私の経験をもとに図表にまとめてみたので、参考にしてほしい。
[図表]入社前にどこで鍛えるべきか?
外の世界を経験することのメリットは、業務上の経験を積むことはもちろん、組織運営のノウハウを学んで吸収できることにある。
父親の会社の規模が小さいと、そのノウハウは有効に機能しないこともあるので、従業員数が二十人程度であれば、中で鍛えるという選択肢もある。次に従業員が一〇〇人程度まで増えると、例外なく組織的なまとまりが必要になる。社長の強大なリーダーシップがあればなんとか収拾がつく規模であるが、あなたにそういった資質が備わっていない場合は、やはり組織運営のノウハウに学ぶことは多い。従業員数が一〇〇人を大きく超えればなおさらだ。自社よりもさらに規模の大きい企業を選び、そこでノウハウを吸収することが望ましい。
だが、都合のいいタイミングでその会社に入れるかどうかは別問題である。相手企業の状況、競争環境や機密管理等様々な制約からこちらの期待通りにはいかないこともあるだろう。そのときは、図表のように別の候補も検討してみる。
二代目の力を高める「他社での社会人経験」
外の世界の経験を勧める理由は他にもある。すぐに父親の会社に入って業績回復に貢献したいという、はやる気持ちはわかるが、今のあなたが貢献できることはおそらくほんのわずかでしかない。長い目で見れば、一度外に出て経験できるメリットは大きい。それは次の四つである。
ひとつ目は、「社会人経験」である。社長の身内であるあなたを、叱ったり注意したりする従業員はほとんどいないと思われる。社会人としてのマナーや振る舞いといった部分は、厳しい上下関係や取引先とのやりとりの中から学ぶことも多い。正しいマナーや振る舞いは品格を高くする。これからの人間関係の中で下手なところで損をしないために、マナーや振る舞いをしっかりしておく必要がある。また、マナーだけでなく、平社員としての経験によって、一般社員が組織の中で抱くであろう感情や気持ちを汲み取る能力も身につくはずである。
ふたつ目の理由は、「問題解決の経験」である。父親の会社への体験入社時に見つけた社内の問題は、実はどの会社にも存在する一般的な内容なのだと気づく。それをチャンスと捉え、自らその問題の解決を試みてみる。そこで、社内の組織力学、政治力学の存在を知り、問題解決が理想ときれい事だけではいかに進まないかを体験することは、貴重な経験となるであろう。
三つ目の理由は、「人脈構築」である。組織の中にはいわゆる優秀な人、実力のある人が必ずいる。そういった人間とのつきあいを大事にしておけば、将来あなたが困ったときの相談相手になってくれるかもしれない。見ず知らずの人に助けを求めるよりも、より明確で確実なアドバイスを受けることができるだろう。
四つ目の理由は、「失敗経験」だ。業況の芳しくない父親の会社では、残念ながら何度も失敗経験はできない。本人としては学ぶことが多かったとしても、周囲は好意的には見てくれない。なるべくなら、父親の会社に入社後は、小さくてもよいから確実に成功を積み重ねたい。そうするためには、できる失敗はあらかじめ外で経験してしまったほうがよい。同時に、失敗は人を謙虚にする。謙虚になって他人の考えを尊重し理解しようとする。そういった姿勢が自身の視野を広げ、人間を大きくすることにつながる。