体験入社して「いろいろな情報」に触れてみる
父親の会社に正式に入社する前に、時間があれば「体験入社」をしてみてほしい。目的は会社を知ることにあり、多くを観察し、できるだけいろいろな情報に触れてみるべきだ。
初めて接するであろう従業員はよそよそしい態度を示すかもしれないが、それを放っておくとせっかくの時間を無駄に過ごしてしまう原因になりかねない。そうならぬよう「〝社長の身内〟扱いをしない」「『勉強させてください』という謙虚な気持ちを持つ」「自分から話しかけて質問する」、これらのことに常に留意したい。自分自身の無意味なプライド、照れ、人見知りの性格、そういうものはとりあえず横に置いておいて、従業員たちに可愛がってもらうつもりで飛び込んでみるしかない。
体験入社で入手すべきは、ニュートラルな立場で自分が感じた疑問である。純粋に〝おかしい〟と思ったことは何か、これをまとめておくことが後々になって役立つ。
“おかしさ”を知るには、他と比べるのがよい。他(の会社)と比べることができれば、業界経験が浅い人間であっても、それがよいことなのか悪いことなのかを知ることはそう難しいことではない。
この情報収集に時間を割く一方で、学業または今の会社での仕事をおろそかにしてはならないし、何よりあなたの年齢からすれば、きっとまだ遊びたい盛りのはずである。それはおおいに結構なことである。一日の細切れの時間をうまく活用しながら継続させることが大切である。
効率的に情報収集を行うための方法を[図表]にまとめてみた。半年、一年と継続するうちに、ある程度は詳しくなっているだろうし、同時に体験入社によって、父親の会社の“おかしい”部分に気づくはずである。
[図表] 情報収集の方法
具体的な疑問を整理できたとしても、それを社内の人間に伝える必要はない。体験入社の身でそれを指摘したところで、「うるさい奴だ」と一蹴されるのがオチである。問題と感じた点を整理しながら、メモしておくだけでよい。
父親の考え方や振る舞いに隠された業務改善のヒント
十分な時間を取って父親と会話をしてほしい。あなたの疑問に、父親が答えるスタイルでかまわない。情報収集をした上での会話であれば、それなりに意味のある会話ができるだろう。
父親の答えが正しいのか間違っているのかを知ることが目的ではない。この会話において大切なことは、「父親の考え方や振る舞い方が社内の至るところに影響を及ぼしている」ということを、社内の観察結果と合わせて認識しておくことである。
会社の業績のみならず、風土や従業員の意識や行動すらも、社長である父親の考え方や振る舞いの結果である。それを父親自身が理解しているかどうかは別として、あなたがその事実を冷静に把握しておくことは、後々、後継者として社内の改善を進めていく際、必ず役に立つ。なぜなら、そこに業績悪化の一因が存在するからだ。裏を返せば、父親の考え方や振る舞いの中には、業績改善のヒントが隠されていると言っても過言ではない。