今回は、公正証書による「強制執行」を行うための要件について見ていきます。※本連載は、新日本パートナーズ法律事務所の代表弁護士・初澤寛成氏と、TH総合法律事務所の弁護士・大久保映貴氏による共著、『会社を守る!社長だったら知っておくべきビジネス法務』(翔泳社)の中から一部を抜粋し、経営陣が知っておくべきビジネス関連の法律知識の基本と、会社を取り巻くトラブルへの対応策、および予防法務について説明します。

強制執行には「一定の要件」を満たす必要がある

前回の続きです。

 

公正証書は万能なのかというと、そうではありません。公正証書により強制執行するには、一定の要件を満たす必要があります。

 

その一定の要件とは、「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの」です(民事執行法第22条第5号)。

 

つまり、①公証人が作成した公正証書であること、②金銭の支払を目的とすること、③債務者が直ちに強制執行に服することを陳述したものであること、が必要です。

 

①公証人が作成した公正証書であること

 

まず、公証人が作成した公正証書である必要があります。公正証書は全国各地の公証役場で作成できます。なお、公正証書を作成する際には、契約書案を公証役場にいきなりもっていくのではなく、公証役場に連絡してFAX等で契約書案を送り、事前に確認してもらうのがよいでしょう。

 

また、多くの場合、本人確認資料(免許証等)、印鑑登録証明書等が必要となりますので、必要な資料についても事前に公証役場に確認しておくのがよいでしょう。

一つひとつの事案に従って条項を作ることが大切

②金銭の支払を目的とすること

 

公正証書により強制執行するためには、金銭の支払を目的とするものでなければなりません。たとえば、「貸した金を返せ」という場合です。金銭の支払ではない、「建物を明け渡せ」のような場合には、公正証書を作成していても、直ちに強制執行することはできません。

 

なお、貸したお金を返済してもらう場合、分割払いにすることがあります。分割払いの場合には、債務者が一度返済するのを怠ったとしても、それだけではいきなり「全額を返せ」ということはいえません。そこで、「期限の利益の喪失」といって、「返済を怠った場合にはすぐに一括で支払いなさい」という条項を設けておくのが一般的です。

 

これに加えて、第三者から差押えを受けた場合等、信用不安に陥ったときにも下記と同種の条項を設ける場合があります。ひな形をそのまま使っておしまいにするのではなく、事案に従って、条項を作ることが大切です。

 

【期限の利益喪失条項の例】

第●条(期限の利益喪失)

債務者が一度でも弁済を怠ったときは、債務者は債権者に対する一切の債務について、何らの通知催告を要することなく当然に期限の利益を失い、債務者は債権者に対する一切の債務を直ちに債権者に支払わなければならない。

 

③債務者が直ちに強制執行に服することを陳述したものであること債務者が直ちに強制執行に服することを約束してくれることが必要です。具体的には、次のような文言を契約書に入れておきます。

 

【強制執行認諾条項の例】

第●条(強制執行認諾)

債務者は、本契約による金銭債務を履行しないときには、直ちに強制執行に服する旨を陳述した。

 

[書式例]金銭消費貸借契約公正証書

 

会社を守る! 社長だったら知っておくべきビジネス法務

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初澤 寛成,大久保 映貴

翔泳社

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