もともとは駅の乗降客等でマーケティングしていたが…
<立地・商圏のポテンシャル可視化プロジェクト─小田急電鉄の事例─>
小田急電鉄は日本有数のターミナル駅新宿駅を起点に箱根、江の島などの観光地を結ぶ鉄道事業と併せて商業・オフィスビルなどの不動産賃貸ビジネスを展開している。
この不動産賃貸ビジネスにおいて、いかに沿線居住者に対して付加価値の高い住居・商業環境の提供ができるかが不動産価値ひいては沿線価値の向上につながる。新宿から小田原までの70の駅に点在する約1000区画に及ぶ駅ナカ・駅周辺ビジネスの付加価値化をどのように図るか? 言い換えると地域のニーズに合ったテナントをどれだけ誘致することができるかということになる。
立ち食いそばの「箱根そば」やスーパーマーケットの「オダキューOX(オーエックス)」、「スターバックスコーヒー」や「ドトールコーヒー」などのカフェ業態や、スイーツや総菜などの食物販、コンビニエンスストア、靴修理、リラクゼーションなど駅の構内、その周辺で成立するビジネスは多種多様だ。
新規テナントを誘致して、契約締結、家賃交渉を担当するリーシング部門や、物件運営やメンテナンスのために動く営業部門、さらに駅やその周辺の商業施設開発を担当する開発部門との連携は重要だ。
これまでリーシング、営業、開発はそれぞれの部門が個別にマーケティングを実施していたため、共通の指標は主として駅乗降客、業種・業態別の過去の相場と商圏人口であった。これらの指標を参考に家賃交渉、テナント誘致、施設の開発・改修を実施してきた。
「駅カルテ」を作成し、社内の各担当で共有
「各部門の目的は『沿線の居住者への豊かなくらしの提案』であるにもかかわらず、それぞれがバラバラの視点と考えで市場を理解しプランを策定していたので、マーケット分析と現状のミスマッチが発生するケースがありました。そこで、(1)現状を理解するための統一的な指標の整備、(2)客観的な評価、(3)ポテンシャルの把握、(4)他鉄道会社の駅との比較による自社沿線駅の駅パワーを知ることが重要と考えプロジェクトがスタートしました」
と小田急電鉄営業・開発リーシングマネジャーの馬場隆之氏は説明する。
これまで、小田急電鉄では駅の商業施設としてのポテンシャルは主に乗降客数と商圏人口で評価していたが、より詳細に「商業集積地としての駅」「周辺で働いている人たちのタイプと人数」「住んでいる人たちのライフスタイルごとの世帯数」「業種業態別競合の商業施設数」をもとに商圏ベンチマーキングを実施。さらに小田急線の70駅の全テナントデータをもとに数十の業種と二十数業態に分類し、売り上げ予測モデルを作成した。
そのモデルを用いて一都三県の鉄道駅約1500か所について月額の坪売り上げをポテンシャルとして評価、その結果を「駅カルテ」として社内の各担当で共有した。
この話は次回に続く。