今回は、マルクスが「資本論」で目指したものについて見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

恐慌も貧困問題もない「自由で平等」な社会

18世紀に唱えられたスミスの自由放任政策(レッセ・フェール)によれば、たとえ人々が利己心に基づいて行動しても市場メカニズムがはたらく結果、社会には一定の秩序がもたらされ、すべての人をhappyにしてくれるはずでした。しかし、実際には恐慌、失業、貧富の差の拡大など、資本主義はさまざまな社会問題を生み出してしまいました。これらの問題をどのように解決すればよいのか。

 

マルクスはその著『資本論』(1867年)のなかで、資本主義という制度がいかに矛盾に満ちたダメな制度であるかを明らかにしました。もし恐慌や貧富の差の拡大といった問題が、資本主義という制度そのものに原因があるとするならば、資本主義をぶち壊し、新たな社会体制を構築することに解決の道を見出そうとする発想は極めて自然なものといえます。

 

こうして社会主義思想が、資本主義の生み出した矛盾を解決し、人々をhappyにするための切札として19世紀に登場したのです。社会主義体制にさえなれば恐慌も貧困問題もない「自由」で「平等」な社会が実現する。

 

そんな人々の夢を乗せて、1917年にロシア革命が起こり、地球上に初めての社会主義国家ソ連が誕生したのです。好き嫌いはあると思いますが、20世紀に最大の影響を与えた書物を一つ述べよといわれたら、私は迷うことなくマルクスの『資本論』を挙げます。

 

[図表1]『資本論』(1867年発行)

資本家を排除して貧富の差をなくすという考え方

資本主義が貧富の差をもたらすのはなぜでしょうか? 理由は簡単です。世の中に資本家が存在するからです。資本家というものが存在する限り、労働者を搾取し、資本家の富は増え続けます。

 

だから、私的利潤の追求を禁止し、資本家のいない労働者だけの社会を築けば貧富の差のない社会をつくれるはずです。つまり、資本家の所有する土地・工場などの生産手段の私有を禁止し、生産手段の国有化をすればいいわけです。これがマルクスの得た結論でした。

 

[図表2]生産手段の国有化

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

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南 英世

ベレ出版

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