今回は、発展途上国の貧困問題の解決にどのようなアプローチが必要となるのかを見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

政治的に独立しても、経済的に独立できていない

現在、地球に住む72億人のうちの約5分の4は発展途上国に住んでいます。なかには、年収が10万円以下の人々も少なくありません。世界銀行によると、1日あたりの生活費が1.25ドル未満(年間456ドル)の「絶対的貧困」と呼ばれる人々が約14億人います。これは世界の約5人に1人にあたります。貧困はとくにサハラ砂漠以南のアフリカに多く見られます。

 

彼らにとって、「主権国家」とは貧困者の「収容所」の別名にほかなりません。政治的には独立していても、経済的には独立できていないのです。彼らのような、いわば「宇宙船地球号の船底生活者」を救い上げる方法はないのでしょうか。世界には先進国がいっぱいあります。

 

また、中国やNIES(新興工業経済地域)のように、工業化に成功した事例もたくさんあります。そうした事例を研究すれば、発展途上国から中進国へtake off(離陸)するのはそんなに難しくないような気もします。しかし、実際にはなかなかうまくいきません。

「貧困の連鎖」の背景には複数の要因が・・・

筆者著書『意味がわかる経済学』P109第3章でも述べたように、一国の潜在的生産力は、物的資本、人的資本、技術革新、資源に依存します。発展途上国が貧困から抜け出せない理由をこのような視点から考えると、次のような要因を挙げることができます。

 

第一に、モノを作るための物的資本が圧倒的に不足しています。モノを生産するには工場や機械設備のほか、道路、港湾、鉄道、電力、通信といったインフラストラクチャーが必要です。多くの国ではこうしたインフラを供給するための資金を国内では賄いきれません。外国資本を呼び込むことが必要です。中国では改革開放政策を通じて、外資の導入に積極的に取り組み経済発展に成功しました。しかし、アフリカ諸国ではいまだに内戦が絶えず、外国企業が入っていきにくい状況が見られます。

 

第二に、人的資本とくに基礎教育の不足を挙げることができます。発展途上国では教育施設が十分ではなく、また、貧しいがゆえに子どもを学校にやれない家庭がたくさんあります。そのため、人材が育たず、経済発展に結びつかないのです。また、人口増加率が高いことや乳幼児死亡率(生まれてから5歳までに死亡する割合)が高いことなども、発展途上国のtake offを阻害しています。

 

第三に、発展途上国の多くは、植民地時代から一次産品に依存するモノカルチャー経済から脱却できずにいます。一般的に一次産品の価格は安く、また不安定であることが多く、これが貧困から脱出できない原因の一つになっています。

 

こうしたことから、発展途上国ではいまもなお貧困の再生産の状況が続いています。南北問題解消のためには、政治、経済、人口、教育、医療などさまざまな面からのアプローチが必要です。

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

意味がわかる経済学

南 英世

ベレ出版

経済学の理論や数字を聞いても、それが何を意味するのか、そもそも何のための理論なのかがよくわからないという経験はありませんか? 本書は理論や数字の意味をしっかり理解できるよう、実際の経済状況や経済政策と結びつけ…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録