今回は、マルクスが掲げた理想社会と、その実現に向けて提示された方法を見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

「恐慌」や「失業」のない社会をつくるため…

資本主義社会ではしばしば恐慌が起きます。なぜ恐慌が起きるのでしょうか? 理由は簡単です。企業が好き勝手にモノを作り、作りすぎると売れ残りが出て恐慌が起きてしまうのです。だから、恐慌が起きない社会をつくりたければ、企業が自由に生産できないように、政府が全部管理すればいいわけです。

 

すなわち、計画経済を実行するのです。何をどれだけ作るかをすべて政府が計画し、それに基づいて生産をするのです。もちろん、販売価格も政府が決めます。そうすれば作りすぎて売れ残りが出るということはなくなり、恐慌を防ぐことができるはずです。

 

[図表1]計画経済の実施

 

資本主義に失業は付きものです。しかし、資本主義社会でも失業することのほとんどない職業があります。どんな職業かわかりますか?

 

そうです。公務員です。公務員は違法行為でもしない限り、原則としてクビにはなりません。だから、この世の中から失業者をなくそうと思えば、企業を国有化して、そこに働いている人を公務員あるいはそれに準じる身分にすればいいわけです。そうすれば失業のない社会が実現できるはずです。

 

[図表2]労働者の公務員化

社会主義国家の実現方法として提示した「革命」

生産手段の国有化、計画経済の実施、労働者の公務員化。この三つを実施すれば、貧富の差もない、恐慌もない、失業もない「理想社会」ができるはずです。

 

問題は、どうやってそういう社会を実現するかという移行方法です。実は、マルクス以前にも社会主義思想はありました。ロバート・オーエン、サン・シモン、フーリエらの思想です。しかし彼らは、どうすれば社会主義国家を実現できるかという方法論を持っていませんでした。マルクスは彼らを空想的社会主義と揶揄し、自らの社会主義を科学的社会主義と呼び、実際に社会主義国家実現のための方法を提示して見せたのです。その方法が「革命」でした。たとえ暴力を使ってでも資本家のいない社会をつくろうとしたのです。

 

革命とは英語でrevolutionといいます。動詞はrevolveです。すなわち回転するという意味です。もう一度、図表1を見てください。支配されていた労働者が、自らを支配する構造に「回転」しています。だから、資本主義を打倒して社会主義国家を樹立することを「社会主義革命」と呼ぶのです。

 

マルクスは『共産党宣言』(1848年)のなかで、これまで存在したあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史であると説き、「万国のプロレタリア(=労働者)よ、団結せよ」と革命を呼びかけました。そして、労働運動が展開され、それがロシア革命につながったのでした。

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

意味がわかる経済学

南 英世

ベレ出版

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