火力燃料費の減少額に注目
前回の続きです。
(2)電力会社の株価の見方
電力会社の株価を見るときには、経常利益の変動が注目されます。以下では、発電から電力小売までの電力事業を全て行っている大手電力会社の場合を考えてみます。大手電力会社の経常利益の主な変動要因には、『販売電力量』、『電力の販売価格』、『燃料費』、『修繕費』などがあります。また、『配当金などの株主還元政策』も注目点です。
<原子力発電所の発電量>
原子力発電所の稼働は、火力燃料費に大きな影響を与えます。仮に、原子力発電所の稼働率が上がり、原子力発電所の発電量が増加して、その分、火力発電量を減らすことができれば、天然ガスなどの火力燃料の消費量が減少(火力燃料費の減少)します。電力会社の決算説明会の資料には、原子力発電所の稼働率(利用率)の変動による火力燃料費の減少額に関する感応度が載っている場合があります。
<電気料金政策>
2016年度から電力小売全面自由化が実施され、電力業界の競争が激しくなっています。このため、電力の販売価格の変動に注意が必要です。販売価格の変動要因には、後述するような燃料費調整制度によるタイムラグ影響の場合もありますが、販売電力量を拡大するために、意識的に電気料金を値下げするケースも出てくるでしょう。電気料金を値下げしても、販売数量が増加しなければ、経常利益が減益となるリスクもあります。
燃料費調整制度によるタイムラグを見極めて判断
<修繕費や設備投資額の変動>
大手電力会社は、発電所と送配電設備を保有しているため、設備更新だけでも費用や投資が多くかかっています。そして、新規の設備投資する場合にも、金額が大きくなります。修繕費や設備投資の動向を確認することは、大手電力会社の経常利益を見るうえで、重要な項目です。
<燃料費調整制度によるタイムラグ影響>
電力の販売価格の仕組みには、燃料費調整制度が導入されている場合が多いです。一般的に、燃料費調整制度では、約4ヵ月前の火力燃料の輸入価格に応じて、毎月の電力の販売価格は自動的に変動しています。
例えば、天然ガスなどの火力燃料の輸入価格が上昇すると、約4ヵ月後の電力の販売価格を自動的に値上げする仕組みになっています。逆に、火力燃料の輸入価格が低下すると、約4 ヵ月後の電力の販売価格を自動的に値下げする仕組みでもあります。
燃料費調整制度は、長期的に経常利益への影響は中立となる仕組みです。しかし、約4ヵ月間のタイムラグがあるため、四半期(3ヵ月間)の経常利益には、影響が出てしまいます。
例えば、火力燃料の輸入価格が上昇すると、同時に火力燃料費用が増加し、最初の4ヵ月間は、経常利益の減益要因となります。この減益は、一過性のものですので、タイムラグ影響を除いた実力ベースの経常利益を確認することをお勧めします(後述しますが,都市ガス会社も同じような仕組みがあります)。