「石油製品スプレッド」とコスト削減の動向に注目
(2)石油会社の株価の見方
一般的に、石油会社では経常利益の変動が注目されます。そして、石油会社は、石油製品の精製・販売事業の他に、さまざまな事業を展開しています。この事業ポートフォリオの違いが、石油会社の特徴になっています。配当金などの株主還元政策も注目点です。
<石油精製事業では石油製品スプレッドとコスト削減に注目>
石油精製・販売事業で重要な要素は、石油製品スプレッドとコスト削減の動向です。
石油製品スプレッドとは、石油製品の販売価格から原油価格を差し引いたもので、石油製品の利幅(利益の大きさ)を示しています。一般的には、石油製品スプレッドは、石油製品1 ㍑当たりの単位で示され、多くの石油会社の決算説明会資料に掲載されています。
例えば、石油会社からサービスステーションへのガソリンの卸価格を1㍑当たり100円とします。このガソリンの原料となる原油の輸入価格を1 ㍑当たり90円とすると、ガソリンのスプレッド(利幅)は、1㍑当たり10円となります。なお、この石油製品スプレッドは、原料費のみを差し引いていますので、製油所での精製コストや輸送コストは差し引かれていません。
石油製品スプレッドの変動は、石油精製・販売事業の経常利益に影響しています。石油製品スプレッドの拡大は増益要因ですし、石油製品スプレッドの縮小は減益要因です。石油製品スプレッドの主な変動要因は、国内の石油製品の需給バランスの変化や原油価格の変動などが考えられています。例えば、冬の気温が通常よりも寒ければ、灯油の需要量が通常よりも増加し、灯油の需給がタイト化し、灯油の価格が上昇して、スプレッドが改善することがあります。
石油製品スプレッドの変動は、石油業界の動向です。これに対して、石油会社別では、石油精製・販売事業のコスト削減の成果が注目されます。石油各社は、競争力を上げるために、費用削減や効率を努力しています。石油会社がどのようなコスト削減に取り組んでいるかが注目されます。
在庫の影響を除く「調整後経常利益」の数字が重要
<事業ポートフォリオの違いに注目>
石油会社が石油精製・販売事業以外に、どのような事業を行っているかを決算短信や有価証券報告書のセグメント情報で確認することも重要です。例えば、JXホールディングスは、銅鉱山から銅精錬、電子材料や金属加工事業などの金属事業を行っています。また、出光興産は、豪州などで石炭鉱山を展開しています。それぞれの事業の経常利益の変動は、他の石油会社と異なる動きになり、株価の動きにも違いが出てきます。
<在庫の影響>
石油精製・販売事業の経常利益には、在庫の影響が含まれています。石油会社の経常利益を見る場合には、在庫の影響を除く調整後経常利益を調べて、実力ベースの経常利益を把握することが役立ちます。
原油の輸入価格の変動によって、在庫の影響の金額が変わります。例えば、原油価格が上昇すると、在庫の影響は差益となります。反対に、原油価格が下落する局面では、在庫の影響は経常利益の差損になります。
会計の仕組みの話になりますが、在庫の影響とは、石油精製販売事業が採用している総平均法による在庫の影響と、棚卸資産の簿価切り下げによる影響額の二つがあります。結論だけ紹介すると、在庫の影響は、会計の仕組みによる影響であり、会社のキャッシュフロー(現金の出入り)に影響はありません。このため、石油会社の実力の経常利益を知るためには、在庫の影響を除く調整後経常利益の数字を見ることが、重要になります。在庫の影響を除く調整後経常利益は、石油会社の決算短信または決算説明会資料に載っています。
例えば、図表1、図表2に示すように、JXホールディングスの2015年度(2016/3期)の経常損失は86億円と赤字です。しかし、2015年度の在庫の影響は、2,695億円の差損になっています。このため、在庫の影響を除く調整後経常利益は2,609億円(=経常損失86億円+在庫の影響2,695億円)と計算されます。
[図表1]JXの経常損益の推移
[図表2]JXの調整後経常利益の推移