赤字部門でも他社からは魅力的に見えるものはないか?
第10回で説明したように、事業部門別の決算を出すことで黒字のGOOD部門を見つけられれば、その部門だけを切り分けて事業譲渡を考えることができます。そうでない場合には、他社から見て価値のある「ダイヤの原石」を探していくことになります。このときもっとも大事なのは、買い手の目線を意識することです。自社で赤字部門でも、他社から見て魅力的に映るものがないかを考えます。
具体的な例を見ていきましょう。
以前、筆者の事務所で売上高が10億円、負債総額も10億円の婦人服メーカーの事業譲渡をお手伝いしました。この婦人服メーカーは製造部門の他に、小売部門も一緒に持っていましたが、売上げ不振によって債務超過となり資金繰りも厳しい状態になっていました。
そこで、筆者の事務所に相談にみえて、ダイヤの原石を探すとともに譲渡先も探しはじめました。すると、すぐに小売部門だけなら譲ってほしいという買い手が現れ、小売部門だけを事業譲渡する形になったのです。
売り手は全部買ってほしいと思っても、買い手にとってのダイヤの原石は小売部門であり、それ以外は必要ありません。結果的に、この婦人服メーカーは採算のとれない小売部門だけを切り分け、希望した価格で売ることができました。
もうひとつは建築部門とビル賃貸管理部門の両方を持つ会社の事例です。
この会社は売上高が100億円、負債総額も100億円でした。やはり売上げ不振によって債務超過に陥り、資金繰りが厳しくなりました。そこで、建築部門とビル賃貸管理部門ともに事業譲渡先を探しました。ビル賃貸管理部門については、幸いすぐに買い手が見つかり、私的な入札手続により買い手を選定したのですが、建築部門については、結局買い手は見つかりませんでした。
このように、ひとつの会社の中でも、事業部門によって買い手が見つかる場合とそうでない場合があります。買い手を見つけることは、なかなか難しい仕事です。
M&A専門家には仲介者型とアドバイザー型がある
大企業などではFAといって、ファイナンシャル・アドバイザーやM&A仲介会社が仲介に立って買い手を探します。ここでFAと仲介会社について、少し説明します。
M&Aに関する事業は、民間業者や金融機関の一部、私たち士業など専門家の一部が取り扱っています。その役割は、売り手・買い手の双方と仲介契約を結ぶ「仲介者型」と、どちらか一方の側に立ってアドバイザリー契約を結ぶ「アドバイザー型」に分けることができます。両者は、それぞれメリットとデメリットがあります。
仲介者型の場合、仲介会社は、双方と仲介契約を結ぶことから、相手の状況が見えやすく、円滑な交渉が進む可能性が高いというメリットがあります。しかし、一方の利益に偏った助言はしないという立場をとっていることから、依頼した会社としては、物足りない印象を持ったり、「相手偏りではないか」と不信を募らせることもあります。
この点、アドバイザー型の場合、一方の契約者の利益を最大限に主張することから、契約者にとって頼もしい反面、相手の状況が見えにくく、自分の主張に固執して交渉が長引く場合もあります。
いずれかを選ぶべきか、難しい問題です。中部事業承継紹介センターの場合、センター自体は、あくまで売り手と買い手の「出会いの場」の提供をするだけで、売り手・買い手にそれぞれの顧問の士業がついていることから、「アドバイザー型」ということができます。
仲介者型・アドバイザー型に共通するのは、これらの専門家に依頼するには、コストがかかる点です。支払方法は、着手金+報酬金という方式が一般的で、着手金はなく報酬金のみというところもあるようですが、いずれにしても決して安い報酬ではないようです。中小企業ではそこまでのことはできないため、買い手探しがもっとも大変です。
そこで私たちは、両者の出会いの場として一般社団法人中部事業承継紹介センターを設立し、士業のネットワークを活用して中小企業の方々の「お見合い」を提供し、よい出会いがあるよう、お手伝いをしているのです。
もっとも、私たちがこうした「出会いの場」を提供させていただいても、実際に相手の事業の中から「ダイヤの原石」を探し出すのは、買い手の会社です。お見合いと同じで、よいご縁に巡り合うためには、やはり相応の時間が必要です。
売り手の経営者は、会社の経営がいよいよ厳しくなってから土壇場で専門家のもとに駆け込むのではなく、準備期間や買い手の検討する時間も合わせて、ある程度の余裕を持ち、「思い立ったが吉日」くらいのつもりで早期に専門家に相談することをおすすめします。