今回は、便利な地図サービスを支える、過去の地形図技師の正確な記録について見ていきます。※本連載は、静岡県立高校教諭で、日本地図学会所属の伊藤智章氏の著書、『地図化すると世の中が見えてくる』(ベレ出版)の中から一部を抜粋し、情報の「地図化」の有用性や具体的な事例をご紹介します。

伊能忠敬の実績を引き継ぎ、日本の「地形図」が誕生

私たちの身の回りには様々な地図がありますが、その中でも歴史が古く、あらゆる国で整備されているベーシックな地図が地形図と地図帳です。

 

日本で地形図が産声をあげたのは、明治維新直後です。明治2年(1869年)、新政府は民部省に地図掛を置き、翌年から都市の測量を始めました。わずかな準備期間で測量を開始できたのは、伊能忠敬による全国測量(1800~1821年)の実績があり、原版や技術の継承がなされていたためと思われます。

 

今日につながる「地形図」が初めて刊行されたのは明治18年(1885年)です。陸軍陸地測量部により「正式2万分の1地形図」が刊行されました。「正式」と銘打っているのは、それ以前(明治13年)から戦略上重要な地域を対象に「仮製図」「迅速図」と言われる地形図が刊行されてきたからです。

古い地形図もWEBで気軽に見られる「今昔マップ」

古い地形図(旧版地形図)は、デジタル化され、国土地理院(および各地方の陸地測量部)で謄本公布(大型プリンタで印刷して販売)されていますが、パソコンの画面上で旧版地形図を眺めるには、「今昔マップ」が便利です(図表1)。

 

[図表1]「今昔マップ on the web」トップページ

 

http://ktgis.net/kjmapw/
http://ktgis.net/kjmapw/

 

Webサービス(http://ktgis.net/kjmapw/)では、地形図とGoogleMapによる現在の地図との比較ができます(図表2)。ソフトウェア版では、任意の場所の地図を切り取って明治から現代までの地図をGoogleEarthに重ねて見ることもできます(図表3)。

 

[図表2]「今昔マップ on the web」操作画面

 

[図表3]Google Earth 上に展開した旧版地形図(明治43年版「京都」)

ⓒ Google
ⓒ Google

 

このような使い方ができるのも、歴代の地形図の技師たちが緯度・経度・標高を正確に測って記録してきたからに他なりません。

 

2万5千分の1地形図は、空中写真測量や電子基準点の観測など、実際のデータをもとに地図が描き起こされるので「基本図」あるいは「実測図」と呼ばれ、他の地図は「編集図」と呼ばれます。今日、衖にあふれている様々な地図やWebによる地図サービスの基本となっているのが2万5千分の1地形図なのです。

本連載は、2016年9月25日刊行の書籍『地図化すると世の中が見えてくる』から抜粋したものです。その後の統計情報等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

地図化すると世の中が見えてくる

地図化すると世の中が見えてくる

伊藤 智章

ベレ出版

世の中には様々な情報が溢れていますが、これらを地図上に落とし込んでみると、いろんなことが「目に見えて」わかるようになるのではないかと試みました。 本書では自然環境・産業・資源・エネルギー・生活と文化・人口の様々…

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