今回は、日本の地図帳普及に尽力した守屋荒美雄氏の功績について紹介します。※本連載は、静岡県立高校教諭で、日本地図学会所属の伊藤智章氏の著書、『地図化すると世の中が見えてくる』(ベレ出版)の中から一部を抜粋し、情報の「地図化」の有用性や具体的な事例をご紹介します。

地図帳はなぜ「Atlas」(アトラス)と言うのか?

地図帳のことを英語で「Atlas」(アトラス)と言います。アトラスは、ギリシア神話に出てくる神の1人で、最高神ゼウスとの戦いに敗れ、世界の西の果てで天空を背負わされる刑に処せられました(図表1)。地図帳を「アトラス」と呼ぶきっかけは、世界地図の図法でおなじみのメルカトルが、自ら出版した地図帳の表紙にアトラス神を描いたためとも言われています。

 

[図表1]アトラス神

〈Wikipedia より〉
〈Wikipedia より〉

 

ヨーロッパやアメリカの学校で使われている地図帳は、アトラス神が背負う地球のごとく、分厚く、重いものが多いです。しかも、教室の後ろに並べられた地図帳を生徒たちが共有して使っています。日本の小中学校では、各自に地図帳が配布されますが、実はとても珍しいことなのです。地図帳がこれほど普及した背景には、今からおよそ100年前、旧制中学校の地理教員から実業家に転じた、次に紹介する人物の功績がありました。

私たちが当たり前のように慣れ親しんでいる地図は…

守屋荒美雄(もりや すさびお)(1872~1938)(図表2)は、明治5年(1872年)、現在の岡山県倉敷市に生まれました。高等小学校卒業後、地元の小学校で教員をしながら独学で中学校の教員資格を取得した守屋は、東京の旧制獨協中学校(現:獨協中学・高等学校)に赴任し、地理の教員になりました。彼は大学教授の書いた翻訳調の教科書や、分厚い地図帳に飽き足らず、自ら工夫して教材を作り続けます。

 

やがて出版社から教科書の執筆を依頼され、そのヒットを契機に40歳で教員を辞し、執筆活動に専念します。さらに大正6年(1917年)、「自ら書き、自ら出版する」ことを志した守屋は、自ら出版社「帝国書院」を起こしました。

 

[図表2]守屋荒美雄

〈『守屋荒美雄傳』より〉
〈『守屋荒美雄傳』より〉

 

鞄に入れて持ち歩ける軽さ、学齢や教科書の学習内容に合わせた「主題図」、巻末に統計と索引があるなど、私たちが当たり前のように慣れ親しんでいる地図帳のスタイルの多くは、彼のアイデアによるものです。同社では、彼が手がけた地図帳の復刻版を販売していました(図表3)。

 

[図表3]復刻出版された守屋荒美雄の地図帳(昭和9年版)

〈帝国書院Web サイトより〉
〈帝国書院Web サイトより〉

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    本連載は、2016年9月25日刊行の書籍『地図化すると世の中が見えてくる』から抜粋したものです。その後の統計情報等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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