今回は、「工場分布」の地図化から、製鉄所の立地変遷と、その課題を考察します。※本連載は、静岡県立高校教諭で、日本地図学会所属の伊藤智章氏の著書、『地図化すると世の中が見えてくる』(ベレ出版)の中から一部を抜粋し、情報の「地図化」の有用性や具体的な事例をご紹介します。

Google Earthで空から土地利用を「見る」

今、工場見学がブームです。業界団体のWebサイトには工場の住所が載っていますので、住所を緯度経度情報に変換すれば、Google Earthで簡単に「空から工場見学」をすることができます。

 

Google Earthでは、工場の内部まで見ることはできませんが、同じ業種の工場をまとめて表示することで、その業種が求めている共通の立地環境を考えることができます。代表的な産業の工場の分布と、空から見た土地利用を見てみましょう。

 

①製鉄所

一般社団法人「日本鉄鋼連盟」が公開している「全国製鉄所見学MAP」から、住所録を作成してGoogle Earth上に落としてみました(図表1)。

 

製鉄所には、高炉(鉄鉱石と石炭から鉄を作る)と電炉(くず鉄をリサイクルして鉄を作る)がありますが、高炉を上空から見ると、輸入鉄鉱石や石炭が野積みされている様子を見ることができます。

 

[図表1]日本の製鉄所(高炉)の分布

〈「全国製鉄所見学MAP」より作成〉
〈「全国製鉄所見学MAP」より作成〉ⓒ Google

時代の変化に伴い「原料立地型」から「交通立地型」へ

「産業のコメ」と言われた鉄鋼産業。かつては炭田ないしは鉄鉱石の産地に近いところに立地するのが常識でした。原料である石炭や鉄鉱石は、重量がかさみ、輸送費がかかるからです。工場の候補地が原料産地からの距離によって決定されるような工場を、「原料立地型」と言います。

 

旧ソ連の「コンビナート」は、シベリア鉄道沿いの炭田と鉄鉱石を地図で確認し、両者の中間地点(最も輸送費が安上がりになる場所)にゼロから製鉄都市を建設したといわれていますし、日本の古くからの鉄鋼都市もこの部類に入ります。北九州(筑豊炭田)、釜石(釜石鉱山)などが代表例です。

 

時代が下り、鉄鉱石も石炭も輸入に頼るようになると、原料産地ではなく、港のそばが「生産・輸送コストが最安」になる地点になります。図表2は、新日鉄の鹿島製鉄所ですが、掘り込み式の港湾の一角が真っ黒な石炭と赤錆の付いた鉱石で埋め尽くされている様子がわかります。このような工場を「交通立地型」と呼んでいます。

 

原料立地型から交通立地型への転換は、アメリカやヨーロッパでも見られる現象で、内陸部に残された原料立地型の工場や工業都市をどのようにして再編していくのか、共通の課題になっています。

 

[図表2]新日本製鐵鹿島製鉄所

ⓒ Google
ⓒ Google

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2016年9月25日刊行の書籍『地図化すると世の中が見えてくる』から抜粋したものです。その後の統計情報等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

地図化すると世の中が見えてくる

地図化すると世の中が見えてくる

伊藤 智章

ベレ出版

世の中には様々な情報が溢れていますが、これらを地図上に落とし込んでみると、いろんなことが「目に見えて」わかるようになるのではないかと試みました。 本書では自然環境・産業・資源・エネルギー・生活と文化・人口の様々…

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