かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して「お金の増やし方」を学ぶ本連載。今回は、その第11回です。※本連載は、銀行の元支店長で現在は実業家として活躍する菅井敏之氏の著書、『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』(アスコム)の中から一部を抜粋し、お金の増やし方について、かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して見ていきましょう。

<登場人物紹介>

・和久井健太(わくい・けんた)
京都にある洛中信用金庫に就職。入社三年目を迎え、北大路支店の営業部に配属されるも、引っ込み思案がわざわいして、苦戦。最近自分がこの仕事に向いているのか悩んでいる。

 

やれやれ、これでまた肩身が狭くなったな、と思いながら和久井はトイレから出た。すると、自分の席の向かいに、例のオヤジが座っている。和久井がビックリしたのはそれだけではない。オヤジはテーブルに広げた資料を勝手に見ているではないか。

 

「何しているんですか、やめてください」

 

「お前、銀行マンか」

 

オヤジは悪びれる様子もない。

 

「信金です」

 

少しすねたように和久井が言った。

 

「こんなところに資料ほっぽり出しちゃ駄目じゃないか。大体、金融マンが外でこんなもの取り出すなんてのは言語道断だぞ」

 

確かにその通りである。

「でも、お前、そこには今後も顔出したほうがいいぞ」

「ふむ、洛中信金か」

 

どうやら資料のレターヘッドを見られたようだ。

 

「さっきの電話、さては借り換えられたな」

 

和久井は二の句が継げなかった。

 

「それは金貸し業としては痛恨の極みだな」

 

「ほっといてください」

 

「でも、お前、そこには今後も顔出したほうがいいぞ」

 

「え? 借り換えられたんですよ、しかも全額です」

 

「だからこそ顔を出すんだ。それから、そこの家族構成は知ってるのか」

 

「いえ、知りません」

 

「駄目だなあ、そういうこともちゃんと調べとけ。子供はいくつくらいなのかとか、奥さんの趣味は何かとか……」

 

「ほっといてください、あんた誰なんですか」

 

和久井のコーヒーが運ばれてきた。コーヒーをテーブルの上に置くと、中年の女主人は卓上の皿を見て「あら」と声を出した。

 

「ずいぶん残しはったなあ、そんなにおいしくなかったんかいな」

 

いえ……と和久井は口ごもりながら言う。客だから、まずければ正直にそう言えばよさそうなものだが、なかなかズバンと直球を投げられない性分なのである。ところが目の前にいた中年男は遠慮なく、

 

「お姉さん、美人だけど、料理は下手くそだねえ」と言ってニヤニヤした。

 

「やっぱり……」

 

女主人の顔が曇った。

 

「どうして喫茶店なんかやってるの?」

 

男は和久井のために運ばれてきたコーヒーを勝手に飲んで、

 

「あら、コーヒーもぬるいなあ。お姉さん、食い物出す店は向いてないよ」

 

「そんなこと言われんでも、わかってますさかい」

 

女主人はふくれっ面をしてみせた。

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

菅井 敏之

アスコム

長年の取引先を次々と失う洛中信用金庫。メガバンクの巧妙な罠にはまり、貸し剥がしにあう老舗商店――。人々の夢と希望と「お金」を奪うメガバンクの策謀がうずまく京都の町を、かけだし信金マン・和久井健太が駆け巡る! 読…

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