出資して、利益の分け前を得るのが「株式投資」
株式会社の仕組みと株式、債券の本質について最も基本的なことから話を始めよう。
例えばAさんという人が一生懸命に働き500万円をため、その資金を使ってパン屋を始めたとする。その店は幸いなことに「おいしい」という評判が立ち、行列ができるほどになった。
Aさんは「ビジネスも軌道に乗ってきたので、ここで業務を拡大したい」と考える。しかし、貯蓄はすべて使い果たしてしまっているので資金がない。そこで旧友のBさんのもとを訪れる。
AさんはBさんに事業倍増の計画を話し、500万円を何とか融通してくれないかと頼む。Bさんは旧知のAさんの頼みでもあるし、また、Aさんの事業計画も非常にしっかりしているので資金を出してもよいと考える。幸い、今すぐ必要としない資金もある。ここでBさんには二つの選択肢がある。
(選択肢1)Aさんに500万円を貸す。その代わり、例えば、年5%の金利を払ってもらう。そして、5年目には金利とともに500万円を返してもらう。
(選択肢2)Aさんの事業に500万円を出資する。資金は返さなくてよい。ただし、今後、Aさんの事業の利益(売上げ-経費-Aさんの給料)の半分はBさんが配当金としてもらうこととする。
仮にAさんの事業計画どおりビジネスが成長すれば、選択肢2の場合の分け前はどんどん増えていく。それは選択肢1の年間5%の金利を大きく上回ることになるだろう。しかし、計画に反してビジネスが伸びなかったならば、分け前は小さくなる。赤字になれば分け前はゼロとなるかもしれないし、さらに最悪、倒産ということだってありうる。そうすれば出資金は失われてしまう。
選択肢1の場合は、ビジネスが成長しても、停滞しても5%の収益は得られる。もちろん、倒産すればダメージはあるが、その場合でも株主よりも先に残った財産に対する請求権はある。
Bさんにとって、選択肢1は貸付け、または債券への投資だ。債券というのは借用証書のようなもので、大規模な債券の場合には、幅広く投資家に販売され、その後、市場で流通する。したがって、必要があればその債券をその時の金利や市場実勢を反映した価格で売買することができる(もっともこの例のAさんの発行する債券は非常に小規模なので、そのようなことは期待できない)。
一方の選択肢2は株式投資だ。Aさんのパン職人としての腕と経営力を信用してBさんは結局、選択肢2を選んだ。そして、予想どおり事業は拡大して毎年、収益の半分をBさんは受け取ることになった。
[図表]株式投資と債券投資
事業収益が増減しても利息が変わらない「債券投資」
Aさんの事業は順調に成長した。そして、受け取る配当金も増えてきた。そこでBさんは次のように考えた。「毎年、Bさんの受け取るべき利益全額を配当金としてもらう必要はない。配当金は半分にして、残りはAさんの会社に残し、さらに事業を拡大してもらうほうがよい。配当金をもらって低金利の預金にするよりも、収益性の高い事業で使ってもらったほうがよいはずだ」
Aさんもそれに合意し、今後は利益の半分を配当金として2人で分け、残りは事業に再投資することにした。
さて、Bさんは「Aさんのパン会社の資産の半分をもっているオーナーであり、毎年の利益の半分を得る権利がある」ことを証明するものが必要となる。それが株式だ。株式をもっている人は株主と呼ばれる。株主は、通常、自分の出資比率に応じて利益の一部を配当金として現金で受け取り、残りは会社に残しておくことになる。毎年、事業に残しておく資金は内部留保と呼ばれる。内部留保も株主のものであることは変わらない。
この例は株式会社、株式、債券の本質を示している。債券を保有している人、つまり、資金を貸し付けている人は受け取れる金額が安定している。事業の収益が増加しても、減少しても一定の利息をもらうことができる。
株式の場合は、会社の収益次第で配当金も内部留保金も変動する。利益が大幅に増加すれば、株主の受け取る配当金と内部留保は大きくなる。反対に利益が縮小すれば、株主が得るものも小さくなる。ここに債券はリスクが比較的低く、株式のリスクは高いという根本的な理由がある。