2015年に入って5度も実施された利下げ
2014年後半からデフレ圧力が強まり、市場で大胆な金融緩和への期待が高まる中で、人民銀行は昨年9月、満期の訪れたSLF(常設貸出ファシリティー)を延長する条件として、対象銀行に融資金利を引き下げることを求める中期貸出ファシリティー(MLF)を創設し、融資金利の引き下げを誘導するとともに、11月、12年7月以来となる預金貸出基準金利引き下げを発表、さらに15年に入り、5度の利下げ(2、5、6、8、10月)と預金準備率引き下げ(2,4、6、8、10月、6月は中小企業や農業向け融資で一定の条件を満たす銀行に限った選択的なもの)に踏み切った。
また3、9月と2回にわたり、景気減速の大きな要因である住宅市場を活性化するため、2軒目の住宅を購入する場合の頭金比率を引き下げる(3月は70%から40%へ、また住宅公積金融資を2軒目についても使用可能に、その場合の頭金比率は30%。8月は同30%を20%に引き下げ)等、立て続けに金融緩和措置を講じている。
4月の市場予想を超える大幅準備率引き下げ(1%)は、15年に入ってからの資本流出、これによって、第1四半期末のM2伸びが11.6%と、昨年目標から引き下げられた本年目標(注1)をも下回ったこと、また6、8月は、過熱気味だった株価の急落、またそれが引き金となった世界同時株安が契機になった。
財政面では8月、発展改革委等関係者の情報として、農村での貧困救済、都市の交通等インフラ、中西部での鉄道等インフラ、民生改善、製造業競争力強化・構造転換高度化の5分野、22領域でインフラ投資に必要な資金を調達するため、郵政貯蓄銀行が全額引き受ける形で、国家開発銀行と農業発展銀行が1兆元(20兆円弱)以上の規模の債券を発行、中央政府がその利子補給をする計画と伝えられている(8月5日付中国各紙)。
他方、財政部が向こう2-3年以内に償還の来る地方債務を、3.2兆元規模の債券発行を通じ(3、6月と1兆元ずつ公表、8月末にさらに1.2兆元積み増し)、長期、低金利の債務に置き換える計画を実施、8月末までに計画の46%にあたる1.46兆元が発行された。
この債券を人民銀行が購入することを当局は否定しており、金融緩和で市中消化が順調に進むかが鍵になるが、デフレ圧力、それに伴う地方債務リスクの高まりに対応して、当面の返済圧力を軽減し、先延ばしすることをねらっている。
穏健に経済のデレバレッジを進めてきた当局だが・・・
人民銀行はリーマンショック以降、4兆元の大型景気対策と大幅金融緩和がもたらした信用膨張、企業や地方政府を中心とした債務の積み上がり、影の銀行(シャドーバンキング)の拡大、それらに伴う金融リスクの拡大を抑え込むため、穏健な金融政策の下で経済のいわゆるデレバレッジ(少ない自己資金、多額の借金を梃に大規模な経済活動を行う高レバレッジ状態の解消)を進めてきた。
それ故、それがデフレ圧力を強める結果となっても、大胆な金融緩和に転換することには慎重にならざるを得ないというディレンマに直面してきた。
金融緩和に大きく舵を切った現在、債務膨張、金融リスク拡大は、どの程度懸念すべき要因なのか、次回より、各種推計を踏まえて検討する。
(注1) 本年のM2伸び目標は、昨年の13%から12%へと引き下げられたが、政府工作報告は同時に「12%をやや超えることも可能(也可以略高一些)」として、デフレ圧力の高まりにも警戒した内容となっている。