大胆な金融緩和に動いている中国が抱える、「ネット金融の拡大」「対外債務」「政府部門資産の流動性」という3つのリスク。今回は、「対外債務」について見ていきます。

対GDP比で見れば、対外債務は諸外国より低い水準

【対外債務】
中国内では、一般に債務過剰経済に問題が発生するのは、対外債務を通じての場合が多いが、中国では、債務が膨張し、経済のレバレッジが高いと言っても、大半が国内債務で、これは対外債務に比べ国内で制御しやすいこと、また他方で、2014年後半以降、若干減少傾向にあるが、なお膨大な外貨準備があり(2015年7月末、3.65兆ドル)、問題ないとの指摘がある(2月5日付界面等)。

 

確かに中国の対外債務は諸外国と比べても低く(米独仏伊を見ると、概ね対GDP比30-100%)、当面問題となるような水準ではない。

 

中国国家外為管理局(SAFE)によれば、2014年末8955億ドル、対GDP比8.64%、その後SAFEは、人民元クロスボーダー取引が増加していることを踏まえ、人民元建債務も含めての統計に改訂しているが、そのベースでも15年3月末1.67兆ドル、対GDP比約13%の水準に止まっている。ただし、短期債務の比重が高いこと、期間のミスマッチ、それに伴う金利・為替リスクが拡大している点、要注意である。

 

 

資金調達先が国内から海外へシフトする動きも

SAFE統計によると、期間1年未満の短期債務が約70%(国際決済銀行BIS統計では約80%)と大半を占める。これは香港オフショア市場を中心とした人民元貿易決済に伴う貿易信用の増加によるもの、他方、期間の長い債務は、中国企業のオフショア市場での債券発行だ。

 

BIS統計に基づき債務主体別に見ると、金融部門60%、企業30%、その他が政府部門となっている。ただし外国銀行が中国の銀行を介して中国企業に融資している場合も多く、実態的には企業部門のウェイトは30%よりはるかに高いと推測される。

 

SAFEや人民銀行は、短期債務の半分以上は貿易の裏付けがあってリスクは小さいとしているが(国務院新聞弁公室、7月22日付新華社)、問題は投資がGDPの5割を占める中国経済で、結果的に短期の対外債務が長期の投資プロジェクトのファイナンスに使われて、期間の「錯配」、ミスマッチが生じている可能性が高いことだ。

 

特に昨年来、不動産市場の低迷と引き締め気味の金融政策の下で、国内での資金繰りに窮した不動産開発業者がオフショア市場での資金調達を増やしているとの情報がある(参考文献1)。短期債務のみならず、債券も期間2-3年物が多く、これらの償還が今後2,3年以内に到来し、かなりの債務を借り換え、あるいは新規借り入れしていく必要が生じる。そうなると、米国金利の動向、ドル相場の行方如何で、大きな金利リスク、為替リスクを抱えることになる。金利や為替相場の一層の市場化、弾力化を通じ、こうしたリスクをヘッジする市場を育成するという政策対応がますます求められてきている。

 

また、経済全体の債務が急速に拡大している中で、対外債務がさほど増えていないことは、逆に言えば、今後、必要資金の調達を国内から海外へシフトさせる余地がそれだけ大きいことを意味している。実際、近年、中国政府は「走出去政策」、中国企業の海外進出促進政策の下で資本取引規制を緩和し、オフショア市場での債券発行も奨励しており、そうしたことが生じる可能性は低くない。

 

その場合、「中国の経済成長の恩恵を受けてきた諸外国が、今度は、中国の成長を助ける資金を供給するという形でリスクを負い、成長の恩恵を受ける対価を支払い始める時期が来る」という見方もあり得る(1月26日付South China Morning Post)。こうしたマネーフローの変化が大きくなってくると、問題は中国企業に止まらず、世界経済全体にとってのリスク要因になってくる。

 

<参考文献>

1.  ‘2015年中国経済の鍵を握る不動産市場の行方’金森俊樹、外国為替貿易研究会、「国際金融」2015年2月

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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