今回は、所有しているアパートが老朽化し、住民に退去を求める場合、「立退料」はどうなるのかを見ていきましょう。

調査官は重加算税をかけたがる
税務調査を録音することはできるか?
5/19(日)>>>WEBセミナー

都内2階建て、築50年、計10室の1Rマンションの事例

今回は、建物の老朽化と立退料の関係について説明します。都内の2階建て、築50年を経過した、合計10室のワンルームマンション(1室の月額賃料7万円)という具体的な事例を前提に考えてみましょう。

 

税法上の建物の耐用年数は、(a)木造の住宅用建物が22年、(b)鉄骨造の住宅用建物が34年(骨格材の肉厚が4ミリを超える場合)、27年(肉厚3ミリ超え4ミリ以下の場合)又は19年(肉厚3ミリ以下)のいずれか、(c)れんが、石又はブロック造の住宅用建物が38年、(d)鉄骨鉄筋コンクリート又は鉄筋コンクリート造の住宅用建物が47年とされています。

 

そのため、本件アパートは、いずれの構造であっても税法上の耐用年数を超えていて、老朽化の進行が推測されるために取り壊しの必要性が高く、立退料が不要、あるいはわずかな金額で正当事由が認められるかのような印象を持たれる方も多いと思います。

 

もちろん、税法上の耐用年数は、物理的及び経済的な観点からの効用持続年数を算出して制定したものですから、一応の目安とはなります。しかし、同じ築年数であっても、建物の構造、形状、管理状況などによって老朽化の程度は様々ですし、老朽化によって生じる弊害も様々ですから、それを具体的に調査して明らかにしなければなりません。

 

裁判例を分析しますと、裁判所は、①老朽化によってどのような弊害が発生するのか(その弊害が重大かつ切迫したものといえるか)、②その弊害を除去するための費用を支出することが合理的といえるかを重視しているように見えます。

 

①老朽化による弊害とは、具体的には、(a)築後60年を経過し、建物が傾斜した上に、建物の土台が腐り、地盤も崩壊の危機に瀕している(この事案においては立退料なしでの正当事由が認められています)とか、(b)蟻害、雨水風雨による浸食、ひび割れ、雨漏りなどが発生しているとか、(c)設備等の機能的な陳腐化が見られるといった事情となります。

 

②弊害を除去する費用の合理性とは、(a)修繕等に係る具体的な費用を支出しても、あと何十年も同じ建物を使えるわけではないから、今のタイミングで建て替えたほうが経済的な合理性が認められる、(b)現在の建物の賃料水準からすれば、修繕等に係る具体的な費用を支出する経済的な合理性は認められない、といった内容となります。

単に「耐用年数を超えている」だけでは理由にならない

実際の裁判において、老朽化は極めて重要な要素の一つとして考慮されており、大きく分ければ、(a)著しく老朽化が進んでいて倒壊の現実の危機に瀕しているような事案では、立退料なしでの正当事由を認めているものがあり(但し、このような例は極めて稀です)、(b)耐用年数が経過ないし近づいていて、老朽化による具体的な弊害が生じている案件については、立退料によって補完することによって正当事由を認める例が多く(但し、立退料の金額は、上記①、②の事情が考慮されます)、(c)耐用年数も経過しておらず、かつ老朽化による具体的な弊害が明らかになっていない事案については、立退料を支払っても正当事由が認められない事案に分類できます。

 

以上のことから、今回のケースでは抽象的に耐用年数を超えていると主張するだけでは、賃借人の理解を得ることはできないでしょうし、裁判となった場合に良い結果を得ることもできないでしょう。

 

ですから、老朽化による建替えを検討するにあたっては、少なくとも、具体的にどのような弊害が生じているのか、その補修にいくらかかるのかを専門家(建設会社、建築士や工務店など)に調査してもらう必要があります。

 

実務的には、老朽化に関わる調査は、耐震性能の調査とセットで依頼することが多いのですが、耐震性能と立退料との関係については、次回に説明することにいたします。 

 

 

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本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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