今回は、調整型遺産分割協議の進め方を見ていきます。※本連載では、相続事件研究会の編集による書籍『事例に学ぶ相続事件入門―事件対応の思考と実務』(民事法研究会)より一部を抜粋し、遺産分割協議の調整事例をご紹介します。

本当に調整役として入ることができるか?

(弁護士のつぶやき)

今回は税理士からの紹介事件である。仲の良い税理士がいるとそこから事件が入ってくることがあり大変ありがたい。税理士にとってもよくわからない法務関係を丸投げでき、かつ(当該弁護士がきちんと仕事をすればという条件付きであるが)クライアントの信頼も得られるので、お互いにWin-Winの関係といえよう。

 

さて、今回は調整型の遺産分割協議事案である。弁護士は対立的な(いわば法に基づいた「けんか」)仕事が多いが、時として、当事者のみでは話合いが難しい場合の調整・交通整理役を担うことがある。私的な調停、といったところであろうか。

 

ただ、本当に調整役として入ることができるかどうかは、慎重な判断を要するところであり、通常の対立的事件よりも困難を伴う場合もある。

 

調整役として入ることができる場合の前提条件としては、当事者間に最低限の信頼関係があり、調整可能な余地があることである。峻烈な対立関係で互譲の余地もなければ、調整役で入るべきではない。いったん調整役で入って、当事者全員の話を聞いてしまうと、後に敵対する相手方からも相談を受けたということで、その後特定の者の代理人活動もできなくなる可能性がある。

 

したがって、調整役として入る場合には、最初に誰の、どの程度の話を聞くかが重要である。最初に接触する当事者から話を聞いた段階で調整不能と判断した場合でも、当該相談者の代理人として行動することは可能であるからである。

相続人皆が納得する遺産分割協議を行うことが目的

調整型遺産分割協議の進め方といっても、基本的には代理人型と同じと考えてよいだろう。一般的な手順としては以下のとおりである。

 

①遺言の有無の確認→遺言があれば、原則的には遺言に従う(遺言無効の場合は別)

②相続人の範囲の確認

③相続財産の確認と評価額の検討

④法定相続分のほか、特別受益・寄与分等の検討

 

ただ、代理人型と異なる点は、相続人皆が納得する(少なくとも合意しうる)遺産分割協議を行うことが目的である、という点である。したがって、当事者間で主張が対立する場合には、その主張が事実であるか(事実認定)、仮に事実だとすると、遺産分割協議においてはいかなる法的意味があるか(法的主張と評価)を調整役弁護士が行い、それを当事者にフィードバックして協議する必要がある。したがって、調整役弁護士は上記を的確に行い、当事者らにわかりやすく説明して納得してもらう作業が必要であり、そのためにも当事者全員から一定の信頼を得る必要がある。逆にいえば、全当事者から一定の信頼を得られれば、遺産分割協議成立の可能性はかなり高まったといえよう。

 

調整型遺産分割協議ではないが、複数人の利害が一致しているものの、特定人との利害が合致しない場合には、利害が一致する複数人の代理人として遺産分割協議に関与する場合がある。

 

裁判手続(調停等)で遺産分割協議を行う場合、申立て時には複数人の代理人として申立てをして遺産分割調停に関与するが、調停成立時には、成立時のみ形式的に潜在的利益相反関係を解消すべく、特定の者だけの代理人となり、その余の者については本人が出頭するか、または「○○内容の遺産分割調停が成立しても異議がない」旨の念書を裁判所に提出する必要があろう。

 

したがって、複数人の代理人に就任する場合には、調停成立時に上記のような手続を要すること、場合によっては本人に出頭を要することがある旨説明しておく必要がある(特に遠方の場合には注意が必要である)。

本連載は、2016年2月12日刊行の書籍『事例に学ぶ相続事件入門』から抜粋したものです。稀にその後の法律改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

事例に学ぶ相続事件入門 事件対応の思考と実務

事例に学ぶ相続事件入門 事件対応の思考と実務

相続事件研究会(編集)

民事法研究会

相談から事件解決までの具体事例を通して、利害関係人の調整と手続を書式を織り込み解説!遺産分割協議・調停・審判、遺言執行、遺留分減殺請求、相続財産管理人、相続関係訴訟、法人代表者の相続事案まで事例を網羅!

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