相続人に作成した分割案を提示しながら説明
前回の続きです。
1 妻B女、長女C子および長男D男との面談
X弁護士は事務所で妻B女、長女C子、長男D男と面談した。二男のE男は日中仕事が忙しく来られないとのことであった。
X弁護士:今日は先日D男さんからうかがった事情を基に、私のほうで遺産の分割方法を少し考えてみました。これがすべてではないですし、単なる例ですが、確認しながら皆さん一緒に考えてみてください。遺産総額は、仮の数字ですが8000万円程度です。これは路線価ベースで計算していますが、特にご異論なければこれを前提として進めたいと思います。さて、3つの案の考え方ですが……。
X弁護士は、作成した分割案3案を提示しながら説明した。妻B女は、法定相続分という概念は知っていたものの、合意すればどのように分けてもよいという説明には驚いた様子であった。C子は熱心に分割案の数字をみている。X弁護士は、不動産は後々のことを考えるとなるべく単独所有にすべきこと、今住んでいる方が相続すべきであること、調整は代償金で行う方法があること、どうしても代償金で調整できなければ不動産を売却して金銭で分けることなど一般論を説明した。
収集した意向により柔軟な遺産分割への道筋が…
C子:私はどの遺産が欲しいということは特にありません。額も法定相続分でなくてもよいです。ただ、二男のE男には、母の面倒をきちんとみるように約束させたいですね。私は預金はさほどないので、仮に不動産を相続しても代償金は払えません。
D男:私は少しなら代償金を払えますが、それでも第2案(前回[図表2]参照)のように2000万円以上もの代償金なんて払えませんよ。かといって、実家を相続するのも気が引けます。
B女:私は正直相続しなくてもよいです。息子たちがきちんと面倒をみてくれればそれでかまいません。長男のD男と一緒に暮らしていますから、場合によっては私の相続分をD男にあげてもいいです。先生、どうかよいように分けてやってください。
C子:そうですね、私も先生がよいと思う分け方なら納得できます。ただ、母が全然相続しないのもよくないので、相応に相続してもらったほうがよいと思います。また、E男もきちんと母の面倒をみることと、E男の自宅の共有状態は解消しておいたほうがよいと思います。E男は長男のD男の持分をとても気にしていて引け目に感じているので、自宅が100%自分の物になれば少しは気持も落ち着くと思います。
X弁護士:E男さんの自宅の持分の件は、本件遺産分割協議とは直接の関係はないのですが、どうも皆さんのお話をうかがっていると、一緒に解決できたほうがよさそうですね。それから、B女さんの相続分とD男さんの相続分を一緒に考えることができるのであれば、かなり柔軟な遺産分割ができそうです。私のほうでもう一度考えてみます。今度はE男さんも同席してもらって検討しましょう。
2 二男E男の希望
二男のE男とはなかなか会えない日が続いたが、長女C子を通じて、E男は予想どおり自宅を相続したいこと、また、できれば長男D男が有している自宅持分をE男に移転したいとの意向が示された。B女の介護についてはどのような意見を有しているのかはわからないが、遺産分割とは別途、E男の妻が生命保険金を受け取っているとの情報も得た。
これを前提に、さらに分割案を練り直すことにした。