国家戦略特区の指定を受けた地域で認められるサービス
前回の続きです。
次に紹介するのは、②特区民泊です。
特区民泊は国家戦略特区の指定を受けた地域で、旅館業法の特例として一般の住宅を使って民泊サービスを提供することが認められたものです。正式名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」といいます。
国家戦略特区とは、国が、日本経済を活性化するために、規制改革や税制優遇等の施策を重点的に進めることにした特別な区域です。2013年12月に成立した国家戦略特別区域法によって初めて創設されました。
この制度の下で、これまで「外国人による家事代行サービス」「職住近接のための容積率緩和」「『地域限定保育士』の創設」「公設民営学校の設置」「企業の農地取得解禁」などが行われてきました。特区民泊は、こうした例と同様に国家戦略特区を活用した規制緩和策の一つとして導入されたのです。
特区民泊の仕組みを自治体が設けるためには、国家戦略特別区域会議が、国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業を定めた区域計画について、内閣総理大臣の認定を受けることが必要になります。
これまでに特区民泊を導入したのは、大田区、大阪府、大阪市の3つの自治体です。
大田区は2015年10月20日に区域計画認定を受け、同年12月7日に関連条例を制定しました。翌2016年1月29日に事業者受付を開始し、2月12日に事業をスタートしています。
一方、大阪府は2015年10月27日に関連条例を制定し、同年12月15日に区域計画の認定を受けました。翌2016年4月1日に事業者受付を始めています。大阪市は、2016年1月15日に関連条例を制定し、同年4月13日に区域計画の認定を受けました。同年10月31日から条例が施行されました。
なお、他には北九州市も2016年中に条例を制定し、年度内の事業実施を予定しています。
特区民泊を行うための条件と申請に必要な書類とは?
では、特区民泊の主な要件について見ていきましょう。
第一に、宿泊期間は、政令により最低2泊3日以上と定められています。従来は、感染症の拡大防止を目的として、最低滞在日数が6泊7日以上となっていました。1週間近くも泊まっていれば、仮に宿泊者名簿が用意されていなくても、感染者の身元・行動を把握して追跡することが可能であろう、という考えに基づくものですが、6泊7日の宿泊日数では、民泊をビジネスとして行うことが難しくなるとの批判があったために、2016年10月に改正が行われました。ただし、民泊については各自治体が独自に条例を制定します。残念ながら、全国一律で条件が緩和されるわけではありません。
第二に、1客室の床面積の合計は25平方メートル以上であることが必要です。また、1人当たり、3平方メートル以上の有効面積を確保することも求められています。
第三に、適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を備えることが求められています(排水は、下水道接続であること、冷房及び暖房設備は、室温の調整機能付きとすることが必要です)。
第四に、現在実施されている東京都大田区と大阪府の特区民泊では、滞在者名簿の作成と使用開始時等に本人確認を行うことが求められています。なお、玄関帳場(フロント)の設置については義務付けられていません。
第五に、大田区と大阪府では、民泊を行うに当たり、近隣住民に説明等を行い、その理解を得ることが要請されています。
第六に、大田区と大阪府では消防法上の措置を行うことも求められています。
第七に、用途地域の制限があります。大田区では、簡易宿所と全く同じ用途地域の定めとなっており、一方、大阪府では地域によって異なっています。たとえば、守口市、大東市、泉佐野市などでは、工業専用地域を除く全地域で実施できますが、和泉市、岸和田市、茨木市などは大田区と同様の形になっています。
なお、申請の際には、通常、以下のような書類の提出が必要となります。
【東京都大田区の例】
●申請書
●個人の場合は住民票の写し、法人の場合は定款または寄付行為及び登記事項証明書(い
ずれも6カ月以内のもの)
●賃貸借契約及びこれに付随する契約の約款(外国語表記とその日本語訳)
●施設の構造設備を明らかにする図面
●滞在者名簿の様式
●施設を事業に使用するための正当な権利を証明する書類
●近隣住民へ周知した書面及びどのように周知したかを記載した書面
●消防法令に定める手続きを行ったことが確認できる書類
[図表]大阪府における特区民泊の実施地域