今回は、UX最大化の仕組み作りを見ていきます。※本連載は、シーオス株式会社の代表取締役・松島聡氏の著書、『UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか 』(英治出版)の中から一部を抜粋し、AIやIoTなどテクノロジーの進化によって大変革期を迎えている経済・産業の今とこれからについて解説します。

ユーザーは何に感動し、何に価値を見出しているか?

私は外資系コンサルティング会社で8年間、起業して15年間、ロジスティクスとテクノロジーを軸として、あらゆる産業の課題解決・組織改革に携わってきた。しかし次第に顧客企業と向き合うだけのBtoBサービスに限界を感じるようになった。顧客の向こうにいる消費者と直接向き合わなければ、顧客にとって何が本当に必要なのかが見えてこないからだ。

 

そこで、それまでの事業とまったく関係のないスポーツとウエルネスの分野でBtoCの事業を始めた。この事業の立ち上げでまず見えてきたのは、UX(ユーザーエクスペリエンス)の大切さと、それに応えるビジネスの難しさだった。

 

今起きているユーザーの反乱は、彼らが企業の提供するものに価値をあまり認めなくなったことから生まれている。これまでの企業はユーザーのニーズを把握して、そのニーズを満たす商品やサービスを提供してきたつもりでいるが、それはあくまで設備や組織といった企業のリソースの都合で生みだしてきた商品・サービスにすぎない。

 

これからの企業はそうした既存の枠組みから脱却し、ユーザーが何に感動するか、価値を得るか、つまりUXをいかに最大化するかを基準に、ビジネスモデルを再構築しなければならない。そのためにはこれまでの産業分類が邪魔になる。

 

古いビジネスモデルは製造業やサービス業など、企業が効率的にビジネスを行うために専業化されている。しかし、UXを基準にビジネスを考えた場合、こうした産業の分類は意味をなさない。ユーザーがモノを使うのも、サービスを利用するのも、自分が求める体験をするためであり、それを提供する企業の業種が何なのかは関係ないからだ。

 

たとえばマラソンを楽しみたいランナーにとって重要なのは、ランニングのあるライフスタイルを楽しくすることだ。シューズやウエアは製造業の管轄で、ランニングスクールはサービス業といった既存の業種にとらわれずに市民ランナー目線で製品を開発し、トレーニングやイベントをプロデュースし、ランナー専門の情報サイトやSNSを運営し、最大のUXを提供できる会社が現れるなら、それがユーザーにとってベストかもしれないのだ。

 

そこで私が始めたスポーツとウエルネスの新事業では、雑誌メディア、ネットメディア、SNS、ユーザー目線の商品開発、レースやスクールの企画・運営などを総合的に提供する仕組みを、ユーザー起点でゼロから作り上げた。

 

そこから生まれたのは、ユーザーがただ商品やサービスを買うのではなく、イベントやネットワークを通じて自分たちのコミュニティを形成し、事業を牽引していく、シェアリングエコノミー型の活動形態だった。

 

また、この事業では企業コンサルティング事業で磨いたIoT、AI、ロボティクスなどのテクノロジーを、BtoCビジネスの切り口から新たなかたちで活用することにも挑戦した。

 

このユーザー起点の仕組みと、様々な先端テクノロジーが複合的に作用するビジネスを通じて、UXを最大化するための仕組みをどうすれば構築できるか、それが単なる一企業のビジネスを超えて、どのように産業や社会のシステムを変えていくかが少しずつ見えてきたのだった(詳しくは第3章、第5章で紹介する)。

既存の産業・社会の問題点を理解し、ビジネスを再構築

これまでの経済を支えてきた企業が、新しい時代の変化に対応できずに苦しんでいる。新しいテクノロジーを大胆に活用し、新たなビジネスモデルでユーザーを獲得した新興企業に市場を奪われ、衰退していく企業、潰れてしまう企業も出てきている。

 

日本でもほとんどの企業が従来のビジネスモデルの限界に突き当たり、激化する競争に敗北し、衰退あるいは崩壊の危機に直面している。そして多くの企業が、これまでのやり方を変えなければならないことを感じながら、どこに問題の核心があるのか、どうすればそれを解決できるのかを理解していないように見える。

 

この本を通じて私は、今起こりつつある変化の先にある新しい経済がどのようなものなのか、特に日本の企業がその変化の中でどのように変わっていかなければならないかを明らかにしていきたいと考えている。そしてこの産業革命とも言える変化が、18〜20世紀の産業革命のような急激な社会の変化による混乱や、富の独占・格差の拡大による闘争、国家間の戦争などを生みださずに済むこと、あらゆる人がより幸せになる豊かな社会へと移行していく変化となりうることを、明らかにしていきたい。

 

これから私が取り上げていく既存の産業・社会の問題点を理解し、その古い経済モデルから脱却するための方法を、先入観にとらわれることなく受け止めていただければ、新しい経済システムへの効果的な移行をイメージすることができるはずだ。

 

それぞれの産業でビジネスに携わる方々が、来たるべき産業革命と新たな経済モデルの構築に向けてどのように舵を取っていくべきか、どのように新しい波に乗るべきかを考え、判断していくための一助になれば幸いである。

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

松島 聡

英治出版

IoT、人工知能、ビッグデータ、センサー、ロボティクス…テクノロジーの進化と普及は、企業のあり方、個人の働き方を根底から変え、かつてないUX(ユーザーエクスペリエンス)を生み出す―。モノ・空間・仕事・輸送の4大リソース…

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