これまでの概念では理解できない現象
なんらかのビジネスに携わっていて、今、社会に大きな地殻変動が起きていることを感じていない人はまずいないだろう。それが何なのかを明快に語ることはできなくても、これまでの常識では理解しづらいことがいくつも起きている。
たとえば、あらゆるものがインターネットでつながる「IoT(Internet of Things)」や、「AI(人工知能)」が自分で学ぶようになり人知を追い越すシンギュラリティなど、テクノロジーの爆発的な進化によって人類が経験したことのない現象が起きようとしている。
ビジネスの分野では効率化が飛躍的に進み、高機能・高付加価値の製品が生まれてはどんどん低価格で販売される動きが加速し、アメリカなどでは不動産などの資産を担保にお金を借りてまでモノを買い続ける異常な行動、俗に「ハイパー消費」と呼ばれる現象を生みだした。しかし一方ではそれと全く逆の「シェアリング」というスタイルが生まれ、急速に広がりを見せている。
シェアリングとは、カーシェアリングや自転車シェアリングなど、モノを所有するのではなく共有することだ。今はまだニッチなサービスに支えられている現象・行為かもしれないが、その奥にはこれまで資本主義経済を支えてきた価値観を根底から覆す可能性が秘められている。
「共有型経済」への大転換を予感させるサービスも出現
たとえばアメリカで生まれたエアビーアンドビー(Airbnb)というウェブサービスがある。部屋の所有者がホストになり、サイトを通じて希望者に1泊から部屋を貸す仕組みだ。インターネットを用いた民宿と言ってもいいだろう。貸す部屋は自宅でも別荘でもいい。また、独立した部屋でなくても、ベッド単体、共用スペースから城、島、クルーザー、テントなど、様々なスペースがこのサイトに登録され、利用されている。
サービスのスタートは2008年だが、宿泊施設が不足していたことからたちまち全米に広がった。同様のサービスはヨーロッパなど各国で始まったが、エアビーアンドビーは2011年にドイツの同業企業を買収して海外進出を開始。その後次々と海外拠点を増やし、2016年現在、世界191か国、3万4000以上の都市で、通算6000万人超のゲストにサービスを提供するまでに成長した1 。
1. エアビーアンドビーのホームページ「Airbnb について」
https://www.airbnb.jp/about/about-us(2016 年11 月1 日にアクセス)
日本でも2014年にエアビーアンドビー・ジャパンが設立され、1年間で2219.9億円の経済波及効果と2万1800人の雇用支援を生みだしたと同社は発表している2 。
2. エアビーアンドビーのブログ「Airbnb 日本での経済波及効果」
http://blog.airbnb.com/airbnb-economic-impact-in-japan-ja/(2016 年11 月1 日
にアクセス)
このエアビーアンドビーの新しさは、ユーザーがホスト(スペースの提供者)にもなれる、シェアリング型の仕組みにある。新しく宿泊施設やレジャー施設を作らなくても、スペースの所有者がいくらでも現れて、ホストとして空いている期間だけ提供する。ホストも旅行や出張をするときは、ユーザーとして他の提供者のスペースを利用する。
配車サービスのウーバー(Uber)も同様に、個人がホストとなって自分の所有する車と空き時間をユーザーに提供するシェアリング型のサービスとしてほぼ同時期に始まり、今では世界中に拡大している。
これらは、モノを買い所有する経済から、必要なときに必要な分だけ利用する共有型経済(シェアリングエコノミー)への転換を告げる予兆なのかもしれない。変化に敏感な人たちはすでにこのキーワードに注目し、これから起きる変化を読み解こうとしている。