肩の微妙な動きの調整、肩の強度を高めている筋肉
肩は、骨格による支えが少ない代わりに、筋肉や腱、靭帯、関節包などの軟部組織によって何重にも支えられています。体の深層にあって肩から腕が外れないように安定させたり、肩の微妙な動きをコントロールしているのがインナーマッスルですが、これをさらに覆って肩の強度を高めているのがアウターマッスルです。
アウターマッスルは、体の表層にあって触れることのできる筋肉です。皆さんが筋トレなどで鍛えているのは、このアウターマッスルに当たります。これには、ちょうど肩関節を包むように付いている三角筋、鎖骨と胸骨から上腕骨に付いて胸部を覆っている大胸筋、上腕骨と背骨に付いて肩甲骨の下から背中を覆っている広背筋、そして、首から肩、背中の上部にかけて広がっている僧帽筋などがあります。これらが肩関節を大きく動かすときに、主に関わっている筋肉です。
中でも、肩甲骨を支えて腕を引き上げる働きをしている僧帽筋は、腕の重さを支えるために、ある程度の力で常に収縮していなければなりません。つまり、いつも緊張した状態にあるということです。ちなみに、僧帽というのはカトリックの修道士が被る頭巾のことで、菱形をしているところが似ているので名づけられました。
肩こりはアウターマッスルの血行不良と筋膜の癒着
さて、筋肉は収縮するのにエネルギーを使いますが、伸び縮みの運動はしていない僧帽筋も、腕をぶら下げているだけで絶えずエネルギーを消費しています。エネルギーを生み出すには、血液から送られる酸素が必要です。
ところが、日常で腕を動かすことはあっても、肩まで大きく動かす動作をすることは滅多にありません。そのために僧帽筋は、血液循環が悪くなりがちです。それに加えて物を持ち上げるときは、僧帽筋が肩甲骨を引き上げているようなものなので、物の重さもかかってきます。こうして僧帽筋に負担がかかって緊張が続き、血流も悪くなり筋膜の癒着が起こった状態が肩凝りです。
前回説明した四十肩・五十肩は関節包やインナーマッスルに起こる炎症でしたが、肩凝りはアウターマッスルに起こる血行不良と筋膜の癒着といえます。
肩甲上腕関節に関しては、インナーマッスルとアウターマッスルのバランスが大切で、皆さんが筋トレをして三角筋や大胸筋などのアウターマッスルを鍛えても、インナーマッスルが弱いとバランスが崩れてしまいます。そうなると、強いアウターマッスルに引っ張られた肩甲上腕関節は支点を与えられなくなり安定性を失い、受け皿からボールがずれてしまいます。その結果、関節包や腱板などの軟部組織の炎症や損傷を起こすのです。
それならインナーマッスルも鍛えれば良いと思うかもしれませんが、いかんせん体の深層にある筋肉のため、専門的な知識のある人の指導を受けなければ、効果的に鍛えることが難しいかと思われます。