前回は、四十肩・五十肩を放置すると、どのような事態に陥るのかを説明しました。今回は、「四十肩・五十肩」の放置により、症状が大きく悪化した事例を紹介します。

「自然に治るから」と湿布薬だけ処方されたが・・・

四十肩・五十肩は、年齢に関係なく仕事の内容や生活習慣によっては、誰でも起こり得る疾患です。自然に治る人がいる一方、Aさんのように初期の段階で適切な治療を行わないと、肩が固まって動かなくケースがあります。

 

ところが、中にはちゃんと治療を受けていたにもかかわらず、治るどころかどんどん悪化し、やはり手術が必要になってしまうこともあるのです。これは、自然には治らないタイプの四十肩・五十肩で、放っておくと長期にわたってつらい思いをすることとなります。

 

40代のBさんは、ご主人の経営する会社で事務の仕事を手伝っていました。一日の大半をパソコンの前で過ごしていたため、肩凝りに悩まされていました。

 

そんなある日、右肩に痛みを感じたのですが、肩凝りがひどくなったと思ってマッサージに行きました。それでいつもはラクになるのに、そのときは痛みが増してきたため、数日後に近所のクリニックを受診しました。

 

レントゲンを撮った結果、骨には異常がなく「四十肩ですね」と診断され、自然に治るからと湿布薬だけを処方されて帰ってきました。

 

しかし、2週間が過ぎても痛みが取れるどころか、だんだん肩の動きまで悪くなってきたのです。そこで不安になったBさんは、別のクリニックに行ってみました。けれども、そこでも四十肩と診断され、消炎鎮痛薬と湿布薬を処方されたほか、肩の動きを改善するためにはリハビリと電気治療が必要と言われ、毎朝通院して痛みを我慢しながらリハビリを受けてから出勤するという生活を送っていました。

MRIで判明した「腱板の断裂」

ところが、2年が過ぎても一向に良くなりません。しかし、不思議なことに左手で支えると、右手は痛むことなく上がりました。だからといって、ずっと左手で支えながら右手を動かすのも大変です。

 

いったい自分の肩がどうなっているのかと心配になり、今度は詳しい検査をしてもらおうと思って検査設備の整っている当院を受診されたのです。

 

Bさんの場合は、経過が長いこともあり、すぐにMRIを撮りました。すると、腱板という肩の腱が切れていることで起こる疾患と判明したのです。腱板の断裂は2センチほどでしたので、内視鏡による修復手術が可能でした。

 

そこで、手術を行い、その後は通院しながらリハビリを続け、徐々に腕が上がるようになって元の生活に戻っていきました。

 

Bさんの疾患は、四十肩ではなく最初から腱板が切れていたのか、あるいは四十肩だったのに、肩を動かさないと硬くなってしまうからと、痛みが残っているのに無理な運動を続けたことで症状が悪化し、ついに腱板が切れてしまったのか、いまとなっては本当のところはわかりません。

 

ただ、いえることは、レントゲンは骨が折れているなど骨の状態を見るには効果的ですが、腱板のような軟らかい組織はレントゲンに写らないために切れていてもわかりづらいのです。患者さんの状態を詳しくお聴きしたうえで、腱板断裂が疑われるときにはMRIを撮って確認することが大事なのです。

 

ですから、医師が「腱板が切れているかもしれない」と念頭に置いて診療に当たらなければ、MRIを撮ることはなく、腱板断裂を見つけることも難しくなります。したがって、四十肩・五十肩で長期にわたって悩んでいる人の中には、放っておいても治ることのない腱板断裂の可能性もあるのです。

「肩」に痛みを感じたら読む本

「肩」に痛みを感じたら読む本

鈴木 一秀

幻冬舎メディアコンサルティング

四十肩(五十肩)の発症率は70%を超え、もはや国民病と言っても過言ではありません。 一般に、肩の痛みや違和感は放置する人が多いのが実情ですが、手遅れの場合、尋常ではない痛みと共に日常動作をままならなくなり、最悪の…

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