日本人の矯正歯科治療は欧米人より複雑になりがち!?
矯正歯科治療をするためには「歯を抜かなければいけないのかどうか?」ということも、気になるところではないでしょうか。
結論を先に提示すると、大人が矯正をする場合、多くの場合は抜歯が必要となる可能性が高いといわれています。
骨格は、人種によってそれぞれ異なった特徴をもっています。日本人は欧米人と比べると、顎の幅や奥行きが小さいという傾向があります。
ただでさえ口の中が小さく、歯全体が前方に飛び出している印象になりやすいのです。そのうえ欧米人より顔の造作が平坦なことが多いため、鼻の高さがないと、口元がより出ているように見えてしまいます。
実は、骨格の違いにより、日本人の矯正歯科治療は欧米人のそれよりも複雑になりがちです。美容と健康を兼ね備えた歯並びにするためには、ただ歯の位置をずらすだけではなく、歯がうまく口の中に収まるように、前歯を奥に移動して、唇の力を抜いた状態でも口を閉じられて、鼻呼吸できるという目的で永久歯を抜かなければいけない場合が多いのです。
実際、過去の研究でも、欧米人の矯正で永久歯を抜歯しなければならなかった割合が28%(ProfitWR:AngleOrthodontics64,404-14,1994より)なのに対し、日本人は65・4%(戒田清和他:日本矯正歯科学会雑誌57,103-106,1998より)と、実に2倍以上の割合だったという報告があります。
私たち矯正歯科専門医も、歯を抜かずに治療して正しい噛み合わせと美しさが実現できるのなら、当然、非抜歯で治療を行いたいと考えています。それでも抜歯をするのは、結果的に、そのほうが患者さんのためになるからです。
抜歯をする必要があるのに、無理に歯を抜かないで矯正歯科治療をしようとした場合、次のようなデメリットが考えられます。
◆歯茎が下がる
◆猿のように口元が出た顔になる
◆いちばん後ろに生えている12歳臼歯と呼ばれる永久歯が、歯茎の中に埋まってしまう
◆矯正後の後戻りが起きやすくなり、治療してもまた歯並びが悪くなってしまう
歯を抜かずに治療できる人もいるが…
もちろん歯を抜かずに矯正歯科治療を行える状態の人もいますが、すべての人に「歯を抜かずに矯正歯科治療ができます!」と保証することはできません。そして、この先どんなに矯正歯科治療の技術が進歩したとしても、「100%非抜歯で矯正歯科治療できる」という日はまず訪れないでしょう。
矯正歯科治療は「歯を抜かないからいい」「歯を抜くからダメ」という基準で決められるものではありません。
どの歯を抜くか、何本抜くかなどへのベストな解答は、患者さん一人ひとりの歯の状態によって変わってきます。患者さんのことを第一に考えている矯正歯科医であれば、たとえば歯を抜く時にも虫歯や生まれつき形が悪いといった、状態の悪い歯を優先的に選ぶなど、その症例でのベストな治療を考えて行っていきます。
「自分の歯並びは、抜歯が必要なケースなのか、抜歯が必要ないケースなのか」ということは、一度きちんと診断を受ければわかります。
歯を抜くと診断されても、永久歯を抜くのですから、いろいろと不安や迷いが生じるのは当然のことでしょう。
ですから診断を受ける時には、担当の矯正歯科医から「抜歯をすることのメリットとデメリット」に加え、「もし抜歯をしないなら、どういう影響が考えられるか」についての説明も聞き、納得した上で矯正歯科治療を行うかどうかを決めてください。
そうすれば、デメリットについては「見た目には少しマイナスがありそうだけど、それでも納得できる」など、理想と現状が折り合う妥当な方法が見つかるかもしれません。そうしたことも含めて医師と相談していくようにすると、その後の治療を後悔せずに進めていけると思います。