リビング・ニーズ特約と三大疾病特約の違い
運悪く重い病にかかって、「余命6カ月」などと宣告されてしまったとき、加入している生命保険の保険金の一部を受け取れる特約があったら、残された時間を有効に活用できると思いませんか? 死亡時に遺族に支払われるはずだった保険金を使って、高額だからと諦めていた最新の治療法を試したり、穏やかで充実した最期のための環境作りを進めたりすることもできます。
これを「リビング・ニーズ特約」といって、実は、日本のほぼすべての生命保険に無料で付けられています。
混同されがちな「三大疾病特約」は、がん・脳卒中・心筋梗塞のいわゆる「三大疾病」にかかって、所定の状況になったら、生前に保険金が受け取れるというものです。
受け取った保険金を治療費や、生活費に充てられるので、近年需要が高まっています。こちらには余命宣告は必要ありませんが、この特約を付けると、通常の生命保険よりは割高な保険料となります。
さて、「リビング・ニーズ特約」は、1989年に、アメリカのプルデンシャル生命の社長であるロナルド・バーバロが開発したものです。彼はボランティア活動で訪れたエイズ患者が入院するホスピスで、生命保険に加入していながら、多額の借金を抱えたエイズ患者と出会いました。
「この患者のために、なんとか保険金を前払いできないだろうか」と考えた末に、「リビング・ニーズ特約」を実現させ、いまでは世界中の保険会社に広まったのです。
支払われる保険金は非課税
しかし、自分が加入している死亡保険に、この特約が付いていることを、知らない人が未だに多いのです。保険金は、こちらから請求しないと受け取れない仕組みになっているので、ここでしっかりと覚えておきましょう。
もちろん、「リビング・ニーズ特約」を生前に使うか、使わないかは、本人と家族の意向次第です。いったん受け取ってしまえば、死亡時に支払われる保険金は生前に受け取った額を差し引いたものになるので、遺族への保障は少なくなります。
支払われる保険金については非課税ですので、税金はかかりません。もっとも、死亡後、生前に受け取った給付金が残っていた場合は、相続財産として相続税の課税対象にはなりますので、この点にも注意して使うか、使わないかを判断する必要があります。
ひとつ、気をつけなければいけないケースがあります。
最近ではあまりありませんが、医師による余命宣告の際、患者本人の精神状態を考慮して、その家族だけに告知がなされている場合です。指定代理請求人が、本人に内緒で「リビング・ニーズ特約」を利用すると、保険会社から送られてきた書類を見た本人が余命を知ってしまうかもしれません。本人がショックを受けるだけではなく、家族との関係も悪化する恐れがあるので、注意が必要なのです。
ちなみに、指定代理請求人とは、「リビング・ニーズ特約」など、生前に受け取れる給付金を、被保険者本人に代わって受け取れるよう、本人から指定された人のことです。請求時において、被保険者と同居、または生計を共にしている戸籍上の配偶者か、または三親等内の親族、という条件があります。