今回は、ブロックチェーンと仮想通貨を取り巻く状況について見ていきましょう。※本連載は、ドローン・ジャパン株式会社取締役会長の春原久徳氏、近畿大学教授の山崎重一郎氏が著書として名を連ねる『インターネット白書2017 IoTが生み出す新たなリアル市場』(インプレスR&D)の中から一部を抜粋し、AI、ブロックチェーン、VR、コネクテッドカーやドローンなどのキーワードをもとに、最新テクノロジーの現在を解説します。

当初は、国家による管理を嫌う人々が運営していたが…

著:近畿大学/山崎 重一郎

 

ブロックチェーンや仮想通貨に関する状況は、この1年で大きく変化した。中でも重要な変化は主たる担い手の交代である。

 

ビットコインなどの仮想通貨の開発や運営そして普及活動の担い手は、当初、政府や国家による管理を嫌うリバタリアン的志向を持つ「ビットコイナー」と呼ばれる人達であった。ビットコインの発明者であるサトシ・ナカモト(偽名)も、メーリングリストのログなどによると、そのような思想的志向を持つ人物であった。

 

しかし近年では、リバタリアンとは正反対とも言える、金融機関やIT産業、中央銀行、政府機関などが、ブロックチェーンや仮想通貨に対する研究開発や実証実験の主役になった。

 

その理由は、ブロックチェーンや仮想通貨が金融とITの融合を意味する「FinTech」の中核技術と目されるようになったからである。FinTechに対する投資は、アメリカ、イギリス、中国を中心に100億ドルにのぼると言われ、莫大な金額の投資が世界各地で行われるようになっている。

 

日本でも世界に少し遅れるが状況は大きく変化した。日本を代表する3つのメガバンク(三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)がブロックチェーンの共同研究や実証実験の計画を発表したほか、業界団体である全国銀行協会も「ブロックチェーン技術の活用可能性と課題に関する検討会」を設置した。

 

また、日本銀行や複数の省庁も制度設計や標準化などの取り組みを開始した。2016年4月に日本銀行にFinTechセンターが設立され、日本銀行主催のFinTech勉強会として、技術、法律、経済の分野の有識者からなるブロックチェーン技術の検討が行われている。

 

2016年5月には、経済産業省から「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」というレポートが公開された。

大手金融機関により進められる、システムの実証実験

イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、中央銀行のためのブロックチェーンと仮想通貨の研究開発を行っていることを、2016年2月にサンディエゴで開催されたNetwork & Distributed System Security(NDSS)シンポジウムで発表した。ロンドン大学などとの共同による「RSCoin」である。

 

ゴールドマン・サックスやBNYメロン、UBS、JPモルガンなど世界の著名な銀行や、日本のメガバンクを含む42行をメンバーとするブロックチェーンのコンソーシアムが「R3CEV」である。2015年から実証実験を行っていたが、2016年4月にCordaという独自のブロックチェーンシステムを開発していることを発表した。

 

JPX(日本取引所グループ)は、ブロックチェーン技術の金融分野への適用に関する大規模な実証実験を行い、その成果を2016年8月に「金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について」というレポートとして日本語と英語で公開した。

 

また仮想通貨についても、2016年7月に三菱東京UFJ銀行が、「MUFGコイン」という仮想通貨を開発していることを公表した。ほかにも三菱東京UFJ銀行については、世界最大の仮想通貨取引所を運営する米コインベースに出資してパートナーシップを締結することを発表するなどの動きもあった。

インターネット白書2017 IoTが生み出す新たなリアル市場

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インターネット白書編集委員会

インプレスR&D

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