今回は、仮想通貨の価値を支える「台帳監査システム」について説明します。※本連載は、ドローン・ジャパン株式会社取締役会長の春原久徳氏、近畿大学教授の山崎重一郎氏が著書として名を連ねる『インターネット白書2017 IoTが生み出す新たなリアル市場』(インプレスR&D)の中から一部を抜粋し、AI、ブロックチェーン、VR、コネクテッドカーやドローンなどのキーワードをもとに、最新テクノロジーの現在を解説します。

完全に対称的な「非集中型台帳監査システム」

著者:近畿大学/山崎 重一郎

 

ビットコインのP2P型ネットワークのノードはすべて対等で、特別なものは一つも存在しない。つまり、ビットコインのブロックチェーンは完全に対称的な非集中型(decentralized)の台帳監査システムである。

 

またビットコインでは、通貨発行益をめぐるゴールドラッシュに似た人々の欲望に基づく計算競争(マイニング)が常態となるよう巧妙に設計されている。この競争に勝利するためには消費電力が問題となるほどの莫大な計算が必要である。

 

この競争状態は、仮想通貨システムにおいて3つの重要な機能を担っている。その1つ目は、仮想通貨経済圏における通貨発行手段となっていることである。

 

2つ目は、地球全体に広がる大規模な分散台帳システムにおいて、世界各地で非同期に発生する台帳記録を時系列的に一貫したものになるよう、マイニング競争によって生じる一種の確率的な選択の繰り返しによって最終的に記録内容を一意に合意するための手段になっていることである。

 

3つ目は、この計算競争が結果として、ビットコインのブロックチェーンの台帳記録を、いかなる人や組織にも書き戻すことができない非可逆的記録にしているということである。

 

なぜなら、一旦書き込まれた台帳記録を後で書き換えるためには、マイニング競争の計算結果を再計算し、さらに一定期間マイニング競争に連続して勝利する必要があるが、それは現実には不可能だからである。

 

これらは技術的な仕組みだけで実現されているわけではない。ビットコインが仮想通貨として現実に価値を持ち、それを求めて膨大な計算を行い続けているマイナーの存在が不可欠である。

人が創りだしたにも関わらず、人には支配できない!?

「ザ・ブロックチェーン」すなわちビットコインのブロックチェーンは、人が創りだしたものでありながら、人には支配できないシステムである。ザ・ブロックチェーンの記録は、国家や大企業などを含めて、特定の人や組織には絶対に支配できない中立的な非可逆的記録である。

 

ザ・ブロックチェーンは、人ではなく「Code」(プログラムと法の二つの意味を持つ)が支配している。すべてのノードが「Code」の仕様にそって台帳記録の検証を行うからである。

 

絶対中立的なシステムの運用方法の知見は少ない。たとえば、「Code」そのもののガバナンスの方法もその一つである。現時点では手探りの段階ながら確実に前進していると言ってよいだろう。

絶対中立的・非可逆的記録としてのブロックチェーン

この絶対中立的な非可逆的記録という性質は、他の「ブロックチェーン」では自明ではない。

 

たとえば、仮想通貨Ethereumでは、2016年6月にThe DAOというEthereum上のクラウドファンディングプラットフォームからの資金流失事件が発生し、被害者らの圧力によって、Ethereumのブロックチェーンを事件発生以前の時点にまで書き戻した。

 

これを実施したのは、Ethereumの発明者であり主要な開発者でもあるVitalik Buterin氏である。この事実により、Ethereumのブロックチェーンは、絶対中立的な非可逆的記録ではないことがわかる。

インターネット白書2017 IoTが生み出す新たなリアル市場

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インターネット白書編集委員会

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