所有物件を建て替えるか、売却するか悩むAさん
東京都世田谷区のAさんは72歳。10年前、両親からの相続で取得した住宅に奥さんと住んでいる。建物は築40年と古く、建て替えるか、売却してもっと便利なところに住み替えるか悩んでいた。昨年、庭で転んで足の骨を折り、その後階段の上り下りや庭木の手入れが大変になったからだ。
土地は165平方メートル(50坪)と、この地域では一般的な面積。相続税評価額を計算すると、1平方メートルあたり50万円で計8250万円になった。もし売却するなら約1億円で買い手が付くという。
自宅以外の相続財産は金融資産約2億円。配偶者と長男、長女の3人が相続人で、子供2人はそれぞれ家庭を持って別の場所で暮らしている。
小規模宅地等の特例と、配偶者控除の活用
この状態で配偶者や子供への相続が始まるとする。自宅敷地をそのまま配偶者(奥さん)が相続すれば、特定居住用の小規模宅地の評価減で80%減額できるため、20%評価で1650万円になる。金融資産を含めた相続税は、配偶者控除前で総額約3200万円だ。とりあえず納税や財産分けに問題はない。
さて、Aさんは、近所で相続が発生し、4〜5階建てのマンションや2〜3棟の戸建て住宅が新築される光景をよく目にしていた。
そこで、生前対策として自宅を活用しようと考えた。敷地に賃貸併用住宅の4〜5階建てマンションを建設するか、自宅と土地を売却して住み替えるかのどちらかだ。
金融資産で「賃貸併用マンション」を建設
まず、マンションを建設する場合。建設費は約2億円という試算が出た。賃家と自宅の併用で、賃家部分を8割として計算する。貸家部分の30%減額を考えると、建物の相続税評価額は約1億円になる。
また敷地については、165平方メートルのうち8割部分を貸家建付地(貸家目的の宅地)とし、国税庁の計算式に従って評価額を算出する。Aさんの居住地の借地権割合は路線価図によると70%、また借家権割合は全国ほぼ一律の30%だ。
自用地とした場合の価額8250万円−(自用地とした場合の価額×借地権割合0.7×借家権割合0.3×賃貸割合0.8)=6864万円相続税評価額は計6864万円だ。
さらに減額規定がある。賃貸部分80%は、賃貸事業用の小規模宅地として200平方メートルまでなら50%減額できる。自宅部分の20%は、特定居住用として80%減額が可能。これらを組み合わせると、土地の相続税評価額は約2937万円となる。
自宅敷地として奥さんが相続した場合は1650万円なので、約1287万円高くはなるが、金融資産2億円が建物約1億円の評価額に変わるので、約8713万円の減額メリットが生じることになる。その代わり金融資産はなくなる。