所有権の移転手続き自体は3日もあれば完了
収益不動産の取得は、売買契約を結んで手付金を支払えば、所有権が移転したと見なされます。所有権が移転すれば、その時点で時価に対する相続税評価額の乖離というメリットを享受することができます。例えば、自己資金(預貯金)で収益不動産を購入すれば、その瞬間、時価と相続税評価額の差の分だけ相続税資産の評価が下がり、納税予定の相続税が少なくなります。余命1カ月という方であっても、適切な収益不動産さえ見つければ、3日もあれば契約手続きは完了します。
ただし、先ほども説明したように、売買契約の際に「ローン特約」を付けると停止条件付きとなり、ローンの実行が確定した段階までは所有権が移転していないと見なされる可能性があります。その間に相続が発生すると、節税の効果が得られません。基本的にキャッシュで購入するか、ローンを借りる場合も「ローン特約」なしで、万が一の際は他で資金を用意する準備をした上で契約するのがよいでしょう。
相続評価額が低い「土地(更地)」「家屋」「借家」
このように、圧倒的に相続税の節税効果が高いのは不動産です。しかし、不動産なら何でもいいわけではありません。節税効果の点からは、財産評価通達による相続税評価額と時価の差が大きいものを探すのが基本です。下記の図は、不動産を中心に様々な資産における相続税評価額と時価との乖離を示したものです。
筆者の長年の経験に基づく個人的なイメージですが、例えば不動産でも無道路地や貸地は、時価に比べて相続税評価額は2倍ほどになってしまいます。持っていても資産価値は低く、相続の際には高い税負担がかかってくる不良資産の代表といえます。そのほか、「崖地」「借地権」「別荘」「不整形地」「広大地」なども、時価より相続税評価額が高い不良資産に分類されます。逆に、「土地(更地)」「家屋」「借家」などは時価よりも相続税評価額が低く、相続税対策に向いた不動産だといえます。
図に載っていない資産の中には、時価と相続税評価額の乖離がもっと大きなものもあります。例えば、ゴルフ場の底地です。ゴルフ場を経営する会社から、いったんゴルフ場の敷地を買い取った上で、それをゴルフ場会社に貸す契約を結びます。こうすると、購入者は底地(所有権)、ゴルフ場会社は借地権を持ち、ゴルフ場会社からは地代が支払われるのです。
以前、筆者がコンサルティングしたケースでは、ゴルフ場の底地を8000万円で取得し、地代は年間400万円、相続税評価額は800万円になりました。時価に比べて実に9割も相続税評価額が下がり、ネット利回りも5%になります。こういうケースはめったにありませんが、探せばそれなりにあるのです。
減価償却期間の短さを利用した動産の相続対策
筆者も企画に参画し、自らも所有している賃貸用コンテナの収益商品は、不動産ではなく動産ですが、やはり時価と相続税評価額の乖離が大きな資産の例です。1台100万円の賃貸用コンテナを借地に設置し、リース専門会社による10年の借り上げ保証付きで、年間利回りは10%程度見込めます。
利回りも高いのですが、賃貸用コンテナの最大の特徴は、減価償却期間が短いということです。コンテナは長さによって減価償却の期間が異なり、6m以上のものは7年、6m未満のものになると何と3年です。長さが6m未満の賃貸用コンテナは、3年経つと動産としての資産価値(固定資産税評価額)は1円、相続税評価額も1円になります。そこで3年後に相続人に贈与すれば、贈与税なしで資産移転ができ、残り7年間の賃料収入は納税資金などとして貯めておくことができるのです。これも時価と相続税評価額の乖離を狙った相続対策の一例です。