都市農家、中小企業の相続で活用される納税猶予制度
【特例3】条件が合えばメリット大の「納税猶予」
「納税猶予制度」とは、納税によって、本業である事業ができなくなるような事態を防ぐため、一定の要件とともに定められた規定です。
現状では、以下の二つの相続に関して、適用が可能となっています。
①営農をする上で、広大な土地(500㎡以上)を必要とする都市農家
②相続財産の大半が非上場株式の中小企業
農地については、食料自給率を維持するためなどの理由から、農地法によって処分が規制されています。その一環で、相続税の納税のために農地を手放すことがないように、終身で営農する場合に限って、相続税の負担を軽減する制度が設けられています。
都市農家(農地が、市街化区域のうち三大都市圏の一定区域にあるケース)については、納税猶予を受ける際に、まずは生産緑地の指定を受ける必要があります(生産緑地とは、都市部において緑地を保全するために指定を受けた農地を指す)。
この生産緑地の指定を受けると、相続税の納税猶予を受けられるだけでなく、固定資産税が軽減されるなどのメリットがあります。ただし、原則的に指定後30年を経過するか、農業を引き継いだ相続人が農業を継続できなくなる一定の理由がない限り、解除ができず、農地の転用・転売も原則できません。
納税猶予を受ける際には、さらに条件が厳しくなり、終身営農が前提となります。よって、後継者がいない方、決まっていない方にはおすすめできません。万一、病気などで農業をやめざるを得なくなり、後継者がいない場合、猶予されていた相続税と一緒に利子税の負担までもがさかのぼって課税されるからです。
オーナーという立場で人を雇用し、営農を続ける手もありますが、相応の経営力と給与を払う財力も必要となります。その余裕がない場合、高額な納税負担を避けるため、子どもがやむなく会社を辞め、農業を継ぐようなケースも発生しています。
条件さえ合えば、永続的に相続税が免除になりうる制度ですが、適用を受ける際には、農業を引き継ぐ意思のある家族がいるのかを必ず確認し、いない場合は安易な適用は避けるべきでしょう。
業種や資本金等に規定がある中小企業の認定
中小企業への納税猶予については、相続財産のうち、換金性がない非上場株式の割合が多く、株価の高騰などにより相続税の納税が困難な場合などに廃業を防ぐために設けられた事業承継支援のための制度です。一定の要件を満たせば、親族である後継者が取得した自社株の80%部分の相続税納税が猶予されます(贈与税についても同様の制度あり)。
ただし、業種や資本金、重要因数などについていくつかの規定があり、資産管理会社に該当しないなどの条件が挙げられています。よって、不動産賃貸業などで資産管理会社を活用する際には、適用を受けることができません。
また、申告期限後5年間は雇用の8割以上を維持しているなどの条件も定められています。要件に該当し、永続的に事業を継続していく予定ならば、専門家に相談の上、利用を検討しましょう。
42.5~65%もの評価減が可能な「広大地評価」
【特例4】大幅節税が実現する広大地評価
都市計画法の開発行為を伴うような広大な土地で、大規模な工場やマンションの建設地に適していないなどの判断がされた場合に適用できるのが、広大地評価の特例です。
その名の通り、広すぎる土地について、使う用途が限られてくることを考慮した特例で、戸建て用地を造成する際の開発道路や公園などの公共用地(いわゆる潰れ地)が発生する分の評価減が可能となります。ケースによって減額の割合は変わりますが、一定の計算式で算出された「広大地補正率」により、42.5%~65%の評価減が実現します。
つまり、上手に活用すれば大幅な節税につながりますが、平成16年の税制改正によって計算式で簡単に算出できるようになった一方、広大地に適用できるかどうかの判断は以前より難しくなっています。
広大地は、その評価の減額が大きいことからも、税務署の厳しい指摘が入りやすく、開発道路が必要な区画割りに対し、否認されるようなケースもあります。小規模宅地等の特例に比べても、利用機会が少ない特例でもあるため、適用の相談をする際には、不動産の知識や相続の経験値が豊富な専門家を選ぶことが肝要です。