配偶者への贈与に対する特例「おしどり贈与」
前回まで、不動産、一般社団法人、家族信託、特例などを味方につけた相続対策についてご紹介してきました。
もちろん、一般的な一般贈与(暦年贈与)により、年間一人あたりの非課税枠となる110万円をコツコツと贈与し、相続財産を減らしていくのも手ですが、長期戦になることを覚悟せねばなりません。10年継続したとしても、総額1100万円。資産がそれほど多くない方には向いていても、億単位の資産を持つ人には焼け石に水となりかねません。
また、暦年贈与では、毎年、贈与契約書を作り、必ず銀行を通じた送金にするなど、その都度、贈与したという証拠を残しておくことも大事です。シンプルな方法のようで、こうした手順を踏まえずにやると、あらかじめまとまった金額の贈与とみなされて課税されるなど、思わぬ落とし穴もありえます。
財産や家族の構成により、どの方法が最適なのかは変わってきますが、財産の生前移転のコツは、いかに効率的に実践するかがカギになると、私は考えています。
一つの手法として、配偶者への贈与に対する特例を使う手があります。いわゆる"おしどり贈与"と呼ばれ、婚姻期間が20年以上の夫婦について、居住用の不動産やその購入資金を配偶者に贈与した場合、贈与財産の評価額から最高2110万円(暦年贈与の基礎控除額110万円+おしどり贈与の控除額2000万円)の控除が受けられます。
一定の要件はありますが、相続時の「配偶者の税額軽減」を活用しても、配偶者に相続税がかかる可能性がある方、自宅敷地の面積が広く、「小規模宅地等の特例」が適用できないようなケースにはおすすめの方法といえます。
現金を自社株にして贈与する方法も
また、現金を自社株にして贈与する方法もあります。
現金を出資し、新会社を設立し、現金を非上場株式に替える方法で、出資金と借入金をうまく組み合わせて収益不動産を購入する方法です。
3年経過後、資産の評価方法が相続評価に変わったところで、株を贈与することで、債務超過により自社株の相続税評価額はかなり抑えられ、場合によっては株価を「0」にすることも可能です。つまり贈与税ゼロで財産移転も考えられるわけです。
加えて、先に解説した社団法人を設立し、この株式会社を社団法人の100%子会社にするのも一手です。そうすれば、将来的な株価上昇に備え、相続財産から完全に隔離することができます。
資産管理法人を設立し、賃貸経営を始めたものの、自社株対策で悩んでいる方は多いと思います。しかし、さまざまな工夫をこらせば、収益性をキープしつつ、目的である相続対策も両立することは可能なのです。
もちろん、この手法を活用するには、株価が低くなるような収益物件を見つけ出す工夫や、株価評価に対しての専門知識が必須となります。
ここまでポイント1~5で挙げてきた手法についても同様で、ノウハウを持っている専門家に相談の上で、実施することをお勧めします。