今回は、資金管理を立て直して再生に成功した、ある建築会社の事例を見ていきましょう。※本連載は、中小企業診断士・認定事業再生士で、ヒロパートナーズオフィス代表の五島宏明氏の著書、『三代目が会社をつぶす!?』(同友館)から一部を抜粋し、窮地の中小企業が再生するために必要なノウハウを、事例を交えて紹介します。

業績不振の原因は、資金を管理するという意識の欠如

5.ある建築業の事例

 

東海地方のある町で建築業をご家族で営む会社である。

 

2月末の手形決済資金が不足したため、商工会に小規模事業者経営改善資金(マル経)の借入を申し込んできた。商工会としては支援したいと考えており、現状把握のためにわたしに診断を依頼してきた。

 

まずはこれまでの決算書を拝見するが、そんなに多くはないが利益も出ており、金融機関への返済も行っている。しかし、勘定合って銭足らずである。

 

これにはいくつかの原因はあるが、その一番の原因は資金繰り表を作成していないことであるとわたしは思った。業績不振の会社ほど資金繰り表をつけておらず、資金を管理するという意識がない。

 

資金繰り表を作成していますかと聞くと、「一応なんとなく・・・」とか「家内がやっている」というが、その場合でも複数の紙にメモ書き程度で、それはお粗末なものである。なかには銀行提出用の月次資金繰り表をお持ちの会社も稀にはあるが、活用できていない。

 

大切なのは日別資金繰り表であり、日々の収支なのである。日別資金繰り表を作成するよう依頼すると、売上は未定でありそんなものを作っても仕方がないと言われる方もあるが、その通りである。

 

しかし、売上はいくらになるかは締めてみないとわからないが、支払いはほとんど予測できる。これが大切なことで、まずは日々の支払予定をすべて記入することから始めると、いついくら不足するかが判明し、その対策を考えるのだ。

 

では、資金不足をどう埋めるのか?

 

①売上を上げるのか、もしくは何かを売るのか?

②誰かに借りるのか?

③支払いをずらすのか?

 

これら3つが主な手段であり、これに対して策を講じるのが社長の仕事なのである。

 

こちらの建築会社も資金繰り表を作成しておらず、お母様が資金繰りを行っているのだが、実質の経営者である長男は資金繰りを全く把握していなかった。

 

まずは長男に資金繰りを把握するよう指示。特にこの会社は支払手形を切っており、もし資金繰りがショートした場合、不渡りとなり、一回目は銀行取引停止にはならないが、周知の事実となり金融機関からは期限の利益喪失による一括返済を要求されることもあり、手形発行を制限され、途端に資金繰りが破綻する。

 

だからこそ資金管理をする必要があり、月末の手形決済資金の目途がたたない場合は、すぐに金を借りようとするのではなく、自分で金を作ることを考えること、いわゆる自己金融を行うよう指導した。

 

たとえば、売掛金の回収を強化する。資金回収の早い先への営業を行う。身内の給料を延ばす。金融機関への返済を飛ばす。売れる資産を資金化する。など、打つ手はいくらでもあるのである。すぐに借金に頼るという姿勢を正すことから始めた。

 

長男は資金繰りを把握するためには、日別資金繰り表を作成せねばならず、会社全体の支出や入金をすべて把握すること、そして「入りを計りて出ずるを制す」の基本に則り、資金を管理することとした。

 

その結果、月末にマル経融資が出なくても月末手形分を決済する資金は確保することができたが、マル経融資も無事通り資金的余裕を生むことができたため、この資金を脱手形化に活用することとした。

 

次に売上対策であるが、これまでは待ちの姿勢であり、こちらから積極的に消費者に対してアピールすることは行っていなかった。

 

近くに親戚が経営する地元で人気のスーパーがあるため、そのスーパーにお願いをしてチラシの裏に「すまいの相談会」というイベントを掲載し、毎月趣向を凝らしたイベント(台風対策や防犯対策など)を行うよう指導したところ、そのイベントで新規のお客様との接点がつくれ、付加価値の高い工事を受注できるなどの効果があり、収益も大幅に改善することができた。

マーケットを徹底的に調べ、強みを発掘することも大事

はじめにも書いたが、決算書の精査は事業再生には肝となる。しかしそれだけでは何もつかめてこないのがおわかりになったと思う。

 

いかに社長から現場まで徹底的にヒアリングと調査(観察と分析)を行うことが大切だということ、マーケットを徹底的に調べ上げ、気づいていない強みを発掘していく。そして本当のお客様が誰なのか? を明確にしていく。

 

わたし自身も何度も何度も基本に立ち返り、相談者の強みを探していく。毎回模索しながら一歩一歩進んでいる。その成果が出たときは本当にうれしい。

 

自分自身がどれだけ真摯にその相談相手と向き合っていくかだと信じている。わたしは常に相談前にはいろいろな角度からの資料を収集し、できる限りの調査をして臨む。もちろん、決算書の読み込みは絶対である。やはりこの準備が大切であり、客観的に相手の状況を理解することができる。

 

このように、これからも企業にとってベストな処方箋(判断)を提案するために、自分自身も常に勉強し向上し続けたいと思う。

三代目が会社をつぶす⁉︎

三代目が会社をつぶす⁉︎

五島 宏明

同友館

ベビー子供服洋品店の三代目社長となり、24店舗のチェーンにまで成長させるも、七転八倒の末に45歳で会社は倒産、そして自己破産へ・・・。 どん底にいた著者が、中小企業診断士の資格を取得し、コンサルタントとして企業の再…

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