まずは家賃や製造原価の高さを改善
前回に引き続き、ある豆腐店が企業再生に成功した事例を見ていく。
豆腐店が超えなければいけない課題の1つ目は、地代家賃である。主力取引先である食品スーパーの施設を借りて営業しているが、これが月36万円と高く、相場以上であることが想像できるため、地元の家賃相場を調査すると明らかに高いことが判明、家賃交渉を指示した。しかし交渉するが月1万円しか下がらず、わたしが再交渉に同席することとなった。
最初は先方へ伺う予定であったが、こちらへ食品スーパーの社長自らがお越しになることになった。
面談時、わたしが同席していることに先方の社長は少し怪訝な表情であったが、ことの経緯を包み隠さずお話しすると、つぶされては困るとおっしゃられ、できる限りの協力はするとのお言葉をいただいた。
地代家賃を世間相場並みに下げていただくお願いをし、その場で来月から下げるお約束をしていただけた。これもすべて正直にお話したことと、日ごろのお付き合いの大切さを実感した次第である。
事業再生の局面でよく耳にすることだが、会社がつぶれた後に大口債権者から「そんなに大変だったら、つぶす前に言ってくれたら協力したのに」ということが多い。そのため、今回はつぶれる前に言わせていただこうと、豆腐店の社長と決めていたのだ。
2つ目は、製造原価の高さであり、突き詰めると、廃棄に伴うロスに起因していた。こちらの会社では、一週間に一営業日の生産量と同じくらいの廃棄が出るとのことであり、その多さに驚いた。
その原因を聞くと、ある取引条件によるものであることが判明。それは、すべて返品可能な委託条件で納めているという、びっくりする条件であった。このエリアの同業者はこれが常識とのことである。
当社の主力商品は豆腐である。衣料品ならまだしもなぜ日配品のお豆腐が委託なのだろうか? 第三者ならおかしいと思うことが、当たり前となり自社を苦しめていたのである。商品に自信があるなら当然買取にすべきであり、社長に対して前述のスーパーを手始めに、委託条件の全取引先に対して買取への条件変更のお願いをするよう指示した。
しかし、これには社長が激しく抵抗し、「これまでこの条件でやってきたから取引してもらえた。条件変更のお願いなど、できるはずがない」。このように言われ、なかなか首を縦に振らなかったのである。
そこでわたしは、「家族で力を合わせて再生するのですよね。やってもいないのにできないなどと言っている方が再生などできるはずがない。とっととつぶせばいいじゃないですか!」と厳しく突き放した。奥様と息子さんから、やってみようとの声が上がり、条件変更依頼を行うこととなった。
社長を含め奥様、息子さん、全員にこれが再生の一番の肝であることを説明した。社長が本気で取引先を回った結果、全取引先が条件変更を承諾してくれた。翌月から買取となった。これにより、一週間当たりの廃棄はビニール袋2袋となり、大幅に粗利益を向上させることができた。
3つの施策の実行により、キャッシュフローがプラスに
3つ目は、買取への条件変更の副産物的なものであるが、物流費を大幅に引き下げることができた。これまでは委託だったので、商品の引き上げにまで自社のトラックを使用していた。
その回収業務がなくなったことで、現有の配送トラックを4台から2台に減らすことができ、併せて人件費も削減できた。かつ前述のスーパーへの納品はスーパーの配送便を使わせていただけるようにもなり、固定費の変動費化を果たすことができた。
これらの3つの施策を実行しただけで、翌々月にはキャッシュフローをプラス化でき、今では息子さんはローンではあるが自宅を購入され、社長自身も新居を購入しようかと思われるほどにまで回復した。金融機関への返済も再開し、今では立派に事業を継続しておられる。本当に喜ばしいことである。