今回は、閑古鳥が鳴く旅館を、飲食業への転換で再生させた事例を見ていきます。※本連載は、中小企業診断士・認定事業再生士で、ヒロパートナーズオフィス代表の五島宏明氏の著書、『三代目が会社をつぶす!?』(同友館)から一部を抜粋し、窮地の中小企業が再生するために必要なノウハウを、事例を交えて紹介します。

調理師の腕は良いものの、旅館設備は残念な状況・・・

4.ある旅館の事例

 

九州地方の海の近くにある旅館からSOSが入り、相談に伺った。わたしが旅館に着くと、旅館のご主人は食堂でPOPを作成中であった。

 

冬場はオフ160シーズンであり、昨日までは素泊まり3000円であったが、今日からはサーファーを狙って素泊まり2000円のPOPを旅館前に掲げようという考えであった。これは中小企業が取ってはいけない戦略である。価格で差別化するのは極力避けたいものである。

 

初回は決算書の精査と、ご主人と奥様からのヒアリングを行い、日を改めてプライベートで宿泊することとした。

 

宿泊当日は、最寄り駅まで迎えに来ていただいたが、送迎車の古さだけでなく、車内の汚さが気になった。旅館に着き部屋に案内されたが、わたしたち以外に宿泊客はおらず、一番よい部屋に通していただいた。

 

夕飯前にお風呂に入るが、シャワーの出が悪く、寝る前にもう一度入りに行くと、すでにお湯は冷めきっており、カランからお湯も出ず、かなり残念な状況であった。

 

食事のほうは値段相応であり、特に不満な点はなかった。ご夫婦で旅館を経営されているが、お二人とも調理師であり腕はいい。これを活かせないかと考えた。

 

翌朝、旅館の近くを散策すると、歩いて5分ほどのところに海釣り公園があった。平日であったが、すでに多くの人が釣りを楽しんでいた。宿に戻り朝食をいただき、これも問題なくご飯は美味しかった。食後に海釣り公園についてご主人にお聞きすると、土日になるとシーズンを問わず、大変な賑わいであるとのことであった。

釣り客にターゲットを絞る戦略に

わたしの戦略は決まった。宿泊業はあきらめ、飲食業へ転換すること。いかに海釣り客を取り込めるかであり、そのためにどのように彼らと接点を持つかを考えた。

 

まずは、海釣り客へ宿自慢のコーンポタージュスープで仕掛ける戦術。

 

具体的な方法としては、スープデリバリーのチラシ(発注方法などを記載した)を釣り人に手配りする。受注は電話にて配達時間帯別にオーダーしていただき、その時間に合わせて保温のケースに入れ、温かいコーンポタージュスープを温かいまま、指定された場所まで届け、現金と交換する。温かい物を温かい状態で届けることを徹底させた。

 

とにかくスタートすることが重要であり、週末から始めたところ、固定客ができ、定期的に発注してもらえるようになった。なかには釣った魚を調理してほしいとか、今日は坊主だったので何か魚を調達してほしいという注文などが入り始めた。

 

特にありがたかったのは、帰りにお宅の旅館で宴会をしたいとか、雨が降ったので空いている部屋で休ませてほしいとか、明日も朝から釣りをしたいので泊めてほしいというお客様まで現れたことだ。うれしい話である。

 

次に手を打ったのは、食堂の一般への開放である。宿泊専用で殺風景だった食堂を、テーブルクロスやレイアウトを変えて、わずかな金額でリニューアルを行った。併せてワンコインメニューを開発し、週末は釣り客、平日は地元客を取り込むことを目論んだ。

 

基本は、お客様といかに接点を持つかであり、穴の中に閉じこもりお客様を待つだけではなく、外部環境や内部環境に意識を向け、自社の強みを活かせるターゲットを選定し仕掛けていくことが重要であると話した。

 

この旅館は今では、食堂で音楽イベントを開くなど地元に溶け込み、釣り客はもちろん夏場は海水浴客を取り込むなど活況を呈している。

三代目が会社をつぶす⁉︎

三代目が会社をつぶす⁉︎

五島 宏明

同友館

ベビー子供服洋品店の三代目社長となり、24店舗のチェーンにまで成長させるも、七転八倒の末に45歳で会社は倒産、そして自己破産へ・・・。 どん底にいた著者が、中小企業診断士の資格を取得し、コンサルタントとして企業の再…

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