オープン3ヵ月目で大赤字となってしまった飲食店
2.ある飲食店の事例
中部地方のある水産卸会社が飲食業に進出した。
水産卸会社はマージンが低く相場に影響され、特にこれまで力を入れてきた養殖魚も市況が芳しくなく、社長は、利幅が大きく資金回収もよい飲食業に前々から進出したいと考えていた。そんなとき、風光明媚で広大な駐車場を兼ね備えた市所有の施設内飲食店(そば屋)が退店することとなり、居抜き物件の話が舞い込んだ。
そこで、前々から社長がやりたいと考えていた牡蠣小屋からヒントを得て、店内に牡蠣などのバーベキューができる設備を新しく加えて、飲食店をオープンさせた。しかしながらオープンして3ヵ月、まったく予算が達成できず大赤字、本業を助けるつもりで始めた事業が、逆に本業に対して売掛金を増大させ、足を引っ張る状態になっていた。
そのような状況のときに、商工会を通じてわたしに相談があり、お店を訪問することとなった。訪問して驚いたのは、店にまったく活気がなく、厨房には人がかなりいるが、全員が下を向いて作業をしていた。誰一人として店内に気配りをしていない状況であった。
同行した商工会の経営指導員が声をかけると奥から社長が現れ、面談が始まった。社長にお会いし、わたしにどうしてほしいのかをお聞きすると、
社長「先生さあ、前に店を何店か経営していたよね~」
わたし「はい、子供服のお店を何店か」
社長「その経験を活かして、うちの店長を経営者の目線で店を運営できるよう教育してもらいたいんだなあ~」
わたし「はっ? 店長を教育するんですか?」
社長「そう、先生の厳しさで!」
わたし「お断りします。わたしには店長の教育はできません。が、ダメ社長の教育ならお引き受けします」
社長「わたしに…」
わたし「これはすべて社長が招いたことです。もしわたしの力が必要であれば、わたしのいう条件を受け入れてください」
社長「条件とは何ですか?」
わたし「社長が明日から店長となり、このお店に半年間張りつくこと。それだけです」
社長「……わかりました。お願いします」
これ以降、この社長の行動はすばらしかった。本当に翌日から店長となり、朝から晩までお店に張りついた。わたしへの連絡も毎日メールで行われた。
メニュー変更によって、「何を売りたいか」が明確に
最初に手がけたことは、店のクリンリネスであり、社長(店長)自ら定休日前にはモップでワックスがけを行い、ホールに立ち、不器用ながらも率先して接客を行った。
そのうえで全メニューの見直しを行った。これまでのメニューは、うどんやそば、カレーといったものや中途半端な定食ものばかりで、しかも単価が700円くらいのものが中心の品揃えであった。
本業は水産卸売業であるのに、なぜなのだろうか? 風光明媚な場所なのに、なぜ地元客をターゲットにしているのだろうか?
客観的に見ればおかしな話であるが、当事者にはこれが見えないのだ。本当に不思議なことだが、よくあることである。自社の強みがわからず、現状に惑わされてしまうのである。
この飲食店は居抜き物件であり、しかも以前はそば屋。むろん、厨房はそのときのまま。バーベキューのために客席にダクトを設置したが、バーベキューを前面に押し出したメニューになっておらず、何を売りたいかが明確ではなかった。
当然、売上が上がるはずもなく、平日で丸一日営業しても1万円いかない日もあるような状態であった。全メニューの見直しを行い、単品は3割、定食は5割の単価アップを図った。はじめは単価アップに難色を示したが、社長はわたしを信じてくれたのだ。看板メニューは、海鮮バーベキュー定食1580円とした。
そこで奇跡が起きる。メニュー変更とともにテレビ取材が決まり、看板メニューの海鮮バーベキュー定食が放映されると、土日にはウエイティングが出るほどの人気となった。これにより平日売上は10万円に届くようになり、土日には40万円以上売るようになった。
こうなると社長はますます元気になり、どんどん積極的に施策を打ち出すようになった。そこからは一気に経営を軌道に乗せることとなる。
今ではこの地域の新名所となり、団体客や外国人客も来るようになり、このお店をブランディング化することを計画するまでになった。わたしも顧問としてお手伝いしている。