スタッフがいなければ、毎日の仕事は絶対に回らない
クリニックの開業において最も大切なのは立地ですが、では開業後のクリニック経営で最も重要なものはと問われれば、私はスタッフだと答えます。
一般の中小企業においても、社長一人ではビジネスが成り立たないように、クリニックにおいても、医師は絶対に欠かせない中心人物ではありますが、看護師、医療事務、受付といったスタッフがいなければ、毎日の仕事は絶対に回りません。
その意味では、看護師や医療事務や受付のスタッフに気持ちよく働いてもらうための環境は、医師本人の仕事環境よりも重要とすらいえるかもしれません。なぜならば、医師は自分のクリニックですから、親身になって一生懸命働くのは当然です。しかし、スタッフにとってクリニックは自分のものではありません。ですから、不満があればさっさと辞めてしまいますし、他にもっとよい働き場所があれば平気で転職していきます。
医師と看護師は、医療のうえでは対等なパートナーですが、クリニックの雇用関係においては雇用主と被雇用者です。マルクスの経済学でいえば、資本家と労働者ですから、潜在的には対立関係になります。これをいかに一体化して、患者のために最善の医療を提供するチームに育て上げるかが、経営者=医師の腕の見せ所です。
職場への不満は「向上心」の表れと捉える
私はクリニックの開業支援の仕事において、これまでにさまざまなスタッフの採用と教育に携わってきました。クリニックの人材募集広告を見て応募してくるスタッフというのは、当然、過去に別のクリニックや病院で働いていた経験を持っています。そして、以前のクリニックを辞めた理由は何かといえば、ほぼ100%人間関係です。
同僚の看護師への不満、ボスである院長先生への不満、事務を取り仕切る院長夫人への不満などなど、仲良くなってから聞き出せばいくらでも文句は出てきます。逆にいえば、今勤めているクリニックに対しても、いつ同じような不満が出てきてもおかしくはありません。
実際、大病院において、新人の医師や研修医が、ベテランの看護師に文句をいわれているのは、よく見慣れた光景です。私はとある事情があって、病院に長期入院していたことがあったのですが、そこでも看護師さんの口から聞くのは若手医師への不満が多かったことを覚えています。医師と看護師は対等なパートナーといえども、実際は、医師の指示命令が絶対の権限を持っています。ベテランの看護師さんにとってみれば、年下の上司のようなものですから、自然と不満がたまってしまうのでしょう。
だからといって、医師の権力を振りかざしていうことを聞かせようとしても逆効果です。看護師や医療事務スタッフは引く手あまたで、働き口はたくさんありますから、ワンマン院長のクリニックからは、スタッフが次々と逃げ出してしまいます。
私は、職場に対して何らかの不満を持つことは、決して悪いことではないと考えています。それは向上心の表れでもあるからです。仕事に何の不満も持たないという人は、ただいわれたことをそのままやるだけで満足している人でもあります。医師だって、勤務医時代に職場に不満を感じたからこそ、独立開業しているわけです。クリニックの看護師や医療事務スタッフが不満を感じるのは、仕事へのやる気の表れだと受け取ってください。
しかし、職場の風通しが悪くて、不満が不満のまま誰にもいえないようになってしまうと、スタッフの仕事に対するやる気が減退して、職場の雰囲気が悪くなります。大切なのは、スタッフの不満を不満のまま終わらせず、建設的にクリニックの向上に役立てることです。