なぜ日本の医療の質は高いのか?
日本の医療の質が高いのは、看護師や医療事務のスタッフが、正社員であれパートであれ関係なく、誰でも平等に医師に意見をいえるところではないかと、私は思っています。アメリカの病院では、医師の権力が絶対で、上意下達の組織になっていると聞いたことがありますが、日本のクリニックの多くは、フラットな組織体制が保たれています。これは日本人の和の力であり、チーム力のすごさだといい換えてもいいでしょう。
フラットな組織を構築すると、患者の声がダイレクトに医師まで届くようになります。患者だっていいたいことはたくさんあるのですが、診察をしてくれる医師に直接はなかなかいえません。でも、仲良くなった看護師や受付の人にならいえることもある。患者がいわなくても、スタッフが気づくこともあります。そういった現場の声をスタッフがきちんと拾い上げて、医師に届けることで、よりよい医療が実現できるし、クリニックも繁盛するようになるのです。
とはいえ、患者とスタッフの間には敷居がありますし、スタッフと医師の間にもやはり何らかの壁はあります。お金を介すなど、直接の利害関係がある中だと、なかなかそこまでフラットにものをいい合えないところがあります。
そこに私の会社のようなコンサルタントが入ることで、組織の潤滑油となり、風通しがよくなることもあります。私たちの存在は、医師とスタッフがお互いに直接いい合うことで関係が険悪になるのを防ぐ意味でも、非常に大切です。
院長先生というものは、経営者であり医師であり絶対的な権力者なのですが、その言葉が似合わないくらい繊細でデリケートなものです。もともと、権力志向があって医師になられたわけではないので、現場からの意見を必要以上に気にしすぎてしまうのです。
実際、患者から何らかのクレームがあった後は、院長は傍から見ていてもわかるくらいに意気消沈しています。これは誰でもそうですが、ネガティブな情報を直接聞くと、メンタルに刺さるのでよくありません。ですから、そういう情報は私の会社がいったん受け止めて、言葉の棘を抜いて痛くないようにきれいに加工してから、伝えた方が良いのです。
クリニックを成長させる患者からのクレーム
もちろん、医師がクレームに傷つくのを恐れて、大事な情報を省いてしまっては意味がないので、どんなにネガティブなことでも伝えるべきことは伝えます。患者からのクレームは、クリニックと医師の成長にとって欠かせない養分です。それでも、現実に起きている問題としてだけ伝えるのと、私の会社がある程度対処してから対処法と合わせて伝えるのでは、医師の受けとめ方が違います。
また、伝える時間を選ぶことも大切です。朝の診療時間前にネガティブな情報を伝えると、その日1日の診療の質に差し障りが出てしまいます。診療が終わった後に伝えれば、夜の間に気持ちを整理することができますし、一晩寝た後は気持ちを切り替えることができるでしょう。
逆に、患者からの感謝の言葉などよい情報は朝に伝えることで、その日の医師のモチベーションを高めることができます。このように、医師とは別の立場、別の視点から、ケアやサポートをしてくれる軍師がいれば、クリニックの経営はぐっと楽になります。
大事なのは、医師やスタッフや患者とは異なる立場からの視点を保つことです。一般に「ビジネスには鳥の目・虫の目・魚の目が必要」などといわれるように、経営者には複数の視点が必要です。いい換えれば、高いところから全体像を把握する鳥瞰(俯瞰)、低いところから狭く深く物事を見つめる虫瞰、そして流れを身体全体で感じ取る魚瞰の3つです。
しかし、医療の現場で患者を必死で診ている医師や看護師は、どうしてもミクロな視点の虫の目にかたよってしまいがちです。目の前の患者に虫の目で没頭していると、クリニック全体の評判(鳥の目)とか、医療業界や地域や世相の移り変わり(魚の目)にはどうしても疎くなってしまいます。
医療業界は、毎年のように法令の改正や新しい発見や技術の進歩などがある、動きの速い業界です。クリニックを開業して独立すると、大学病院や総合病院に勤務していたときのように情報がアップ・トゥ・デートで入ってこないので、いつのまにか時代遅れになってしまう医師も少なくありません。たとえ、1人でやっていても、鳥の目と魚の目を忘れないようにしなければ、長期間にわたってクリニックを維持することはできません。