大きく医師数を伸ばす「精神科」と「糖尿病内科」
どのような医療が求められているかについては、医療施設に従事する医師数を、診療科別に集計した数字が、参考になるかもしれません。
現在、日本の医療施設における、診療科別の医師数は下記図表のようになっています。
[図表1]医療施設従事医師数
一見してわかるように、圧倒的に内科の医師が多いです。これは、患者の内科に対するニーズの高さを反映したものと見ることができます。ですから、開業するのであれば、専門が何であっても、内科を診療科目に加えた方がよいと思われます。
次に、これらの医師数の年次推移を見てみましょう。年次推移は1994年時点を1としたときの指数で表します。年次推移を見ると、この20年間で内科の医師はわずかながら数を減らしていることがわかります。
[図表2]医療施設従事医師数の年次推移
これは、2008年に診療科名の定義が細分化されたことで、糖尿病内科(代謝内科)の医師などが別に集計されるようになったことが原因でしょう。このグラフ上で、大きく医師数を伸ばしている診療科が2つあります。ひとつは精神科で、もうひとつは糖尿病内科(代謝内科)です。この2つは、時代のニーズに応えるかたちで医師数を増やしたものと見ることができます。つまり、精神科のクリニックや糖尿病内科(代謝内科)のクリニックであれば、多くの患者に歓迎される可能性があります。
逆に、この20年間に医師数が大きく下がっているのが、外科と小児科と産婦人科です。外科については、内科と同様に、診療科名の定義の細分化によって、脳神経外科や呼吸器外科に分離されたことが大きいでしょう。
医師志望者は小児科と産婦人科を敬遠!?
一方、小児科と産婦人科の医師数の減少は、日本社会の少子化の影響を受けたものと思われます。また、患者の力が強くなって医師が訴えられるリスクが増えたことと、不規則な勤務時間からくるハードワークから、小児科と産婦人科は、医師志望の若者から敬遠される診療科であるともいわれています。
では、小児科と産婦人科での開業は避けた方がよいのかといえば、ものは考えようです。実際に、小児科と産婦人科のクリニックは減少していますが、そのために、不便を感じている人が大勢いるかもしれません。だとしたら、かつてあった小児科や産婦人科が廃業してしまった街であれば逆に、「新しく医師が来てくれた」と歓迎されることにもつながります。要するに、ニーズとは、開業する街によって異なるのです。
若い夫婦や子どもが大勢いる街であれば、小児科や産婦人科のニーズがあります。逆に、少子高齢化でおじいさんおばあさんばかりになった街であれば、在宅医療(訪問診療)や、介護施設の併設された診療所が求められるでしょう。ストレスのたまりやすい大都市であれば精神科や心療内科のニーズが高いでしょうし、オフィス街では、眼精疲労を癒すための眼科が求められているかもしれません。また、富裕層の多い地域であれば、美容整形に対応した形成外科の需要があるかもしれません。
もちろん、医師にはそれぞれ、これまで経験してきたキャリアがありますから、それも考慮しなければなりません。外科の医師に精神科のクリニックを開業しろといっても無理でしょうから、外科で開業したいのであれば、外科のクリニックが求められている場所を探すことです。自分がやりたい場所ではなく、患者がいる場所を探して開業することを心がけましょう。